by 佐藤華奈子 2023.06.21
都市部でもよく見られ、最も身近な野鳥といえるカラス。身近ゆえに困らされることもあり、不気味なイメージからなんとなく怖がられ、その生態はあまり知られていません。まずはカラスのことを知り、関わり方を考えていきましょう。
カラスってどんな鳥?
カラスはスズメ目カラス科カラス属の鳥。南極・南アメリカ・ニュージーランドを除く世界中に広く生息しています。全身が黒いため不吉なイメージをもたれることが多いですが、黒ではない種類もいます。世界各地で神話にも登場し、地域によっては神さまの化身や遣いとして神聖な鳥とされている場合もあります。大半の地域で2~3種が一緒に生息していて、日本の都市部で見られるのはおもにハシブトガラスとハシボソガラスの2種です。それぞれの特徴を見ていきましょう。
ハシブトガラスはクチバシが大きく太いのが特徴。頭に段がありおでこが出ているように見えます。鳴き声は「カーカー」と澄んだ声です。おもに街中や公園の森などに住んでいます。
一方のハシボソガラスは、クチバシが小さめで細いのが特徴。ハシブトガラスよりやや小柄で、頭に段差はなくなだらかです。鳴き声は「ガーガー」と濁って聞こえます。おもに郊外の田園地帯や農耕地に住んでいます。
どちらも昼行性で、日中に活動して夜はねぐらにしている場所で休みます。夕方になると群れで集まってねぐらに帰っていく姿が見られます。日本では昔から人里の近くで暮らし、作物を食べてしまう一方で田畑にとって悪い虫を食べてくれる頼もしい存在でもありました。現代はカラスの生活場所も都市部やその周辺に移り、山奥では見られない鳥となっています。
カラスは賢いって本当?
カラスはよく賢いといわれます。それを裏付ける理由やエピソードは多々あります。クルミを食べるためにわざと車道に落とし、車がひいて殻が割れたところを食べるという話は有名ですね。それも偶然にまかせているのではなく、ちゃんとタイヤが通る場所を捉えていて、うまくいかなかったら置き直す姿も見られています。さらに信号の意味も理解していて、赤信号でクルミをおき、割れても信号が青の間は待っているのだとか。ニューカレドニアに生息するカレドニアガラスのように器用に道具を使い、道具がないときは似たものを作って使う姿が見られる仲間もいます。
また、明らかに遊んでいる姿もよく観察されています。公園のすべり台や雪が積もった斜面を何度も滑り降りたり、鉄棒遊びのように枝や電線に逆さにぶら下がったり。ボールのように物を投げたり落としたりするなど、遊びのバリエーションも豊富です。
カラスは体に対する脳の比重が大きく、記憶や判断といった知性に関連する大脳もほかの鳥よりずっと発達していることがわかっています。人間に例えると7歳程度の知能があるといわれ、保護されたカラスは人間の言葉を覚えて真似をしてしゃべることもあります。そして人の顔をすぐに覚え、5年前に会った人のことも覚えていたことが確認されています。
カラスの問題行動
カラスは身近に住んでいるうえに賢いため、人間にとって悪い行動をすることがあります。例えば次のような行動が問題になっています。
・ごみ袋をやぶって生ごみを食べ散らかす
・畑や家庭菜園の作物を食べてしまう
・小型のペットを襲う
・人を追いかけて威嚇する、蹴って攻撃する
・集団で鳴いてうるさい
・フンで汚される
・電柱に巣を作ると停電の原因に
このほか、カラスが線路に石を置いたために、電車の運行に差し障りがでることも。これはイタズラや遊びではなく、保管した食料を取り出す際に石をどけて置いたものと考えられています。
カラスに助けられていること
カラスは悪い行動もある一方で、実は助けになっていることもあります。
・虫を食べてくれる
・生き物の死骸を食べてくれる
カラスに気味が悪いというイメージがあるのは、死んだ生き物まで食べることも関係しているのでしょう。ですがカラスはお掃除屋のような役目も果たしています。被害にあうと「いなくなればいい」と思う人もいるかもしれません。でも野生動物はすべて生態系のなかの一員です。カラスがいなくなれば害虫が増えてしまうことや、別の鳥が急増して新たな被害が発生することが考えられます。
カラスに対して気をつけること
カラスと共存していくために、気をつけたいことを紹介します。
生ごみの出し方に気をつける
生ごみが入った袋は夜ではなく、回収日の朝に出しましょう。生ごみを紙で包み、カラスから見えないようにするのも一案です。ごみ置き場には防鳥ネットや回収ボックスを設置してごみに接触できないようにします。
カラスの巣に近づかない
3〜7月はカラスが巣を作って子育てをする時期。このとき、わが子を守るために巣に近づく人を威嚇し攻撃することがあります。カラスは高い樹木や電波塔の上などに巣を作ります。この時期、カラスが頻繁に出入りしていて巣がありそうな場所には近づかないようにしましょう。どうしても通らなくてはいけない場合は、なるべく巣から離れたところを歩き、巣の方は見ないですぐに通り過ぎるようにしてください。傘をさして歩くことも対策になります。
ヒナを拾わない
飛ぶ練習をしているヒナが地面に落ちることもあります。この場合はたいてい近くに親がいて、保護しようとすると攻撃される可能性があります。ヒナが地面にいてもそっとしておきましょう。
食べものを与えない
カラスが人を威嚇したり襲ったりするのは、基本的に子育ての時期だけです。それ以外はカラスから近づくことはありません。ところがカラスに食べるものを与えると、人に慣れて警戒しなくなります。与えるつもりはなくても、屋外にいるペットのごはんや外に置いた生ごみなどを食べてしまうことも。結果的に与えることにならないよう気をつけましょう。
許可なく捕獲しない
鳥獣保護法でカラスを無断で捕まえることは禁止されています。対策をしても被害が続くような場合は、捕獲の許可を得られる場合もあります。生活に支障があって困っているときは、自治体の野生動物を管理する部署に相談を。
むやみに威嚇しない
捕獲ができなくても、せめて驚かせて追い払えれば、と思うかもしれません。ところがこれが逆効果になる場合も。カラスは嫌なことをされた人の顔を覚えて仲間に鳴き声で特徴を伝えることができるのだそう。1羽に敵とみなされると、仲間に伝えられてカラスから反撃を受け続けることになりかねません。追い払うつもりが逆に集めてしまうことにもなるので、むやみに脅かしたり、物を投げたりするのはやめましょう。
まとめ
カラスが悪いことをするのは、人間を困らせるためではありません。ゴミや農作物を食べるのは、そこに食べるものがあったから。威嚇や攻撃をするのは、大切なヒナを守るため。つまり生きていくためにしていることで、きっかけを作るのは人間の方ともいえます。
巣があるとは知らずに近づいたり、ゴミの容器のフタを開けられて荒らされたり、ネットのすき間からゴミ袋を破られることもあるでしょう。やられたことで対策をして、でもまたやられて、と攻防が続くこともあるかと思います。できるだけカラスに悪さをされる機会を作らないようにしつつ、どうしても困ったときは自治体に相談するなど、状況に応じて対処していきましょう。