世界遺産の島の希少な野生ネコ!イリオモテヤマネコとは

by 佐藤華奈子 2024.07.09

ADVERTISEMENT

日本の南西端に位置し、国際的に希少な野生動物が多く生息することから世界自然遺産に指定されている西表島(いりおもてじま)。その代表的な野生動物がイリオモテヤマネコです。一体どんなネコなのか、特徴やほかのネコとのちがいを解説します。

イリオモテヤマネコってどんな猫?

イリオモテヤマネコは沖縄県の西表島に生息する野生のネコ。体重は約3〜5Kg、鼻先からしっぽの付け根までの長さが50〜60cmとイエネコに近い大きさです。全身は淡褐色で暗褐色の斑点が入ります。後頭部から額にかけて黒と白のシマがあり、目のまわりは白く縁どられています。
ヤマネコの仲間ですが、高地ではなく山のふもとから海岸にかけての低地で暮らしています。夜行性で特に日暮れや明け方に活発になる薄明薄暮(はくめいはくぼ)型です。群れは作らず単独行動で、決まった行動範囲を持つ場合と持たない場合があります。

イリオモテヤマネコの特徴は?

イリオモテヤマネコがいるのは世界中で西表島だけで、学術的な価値が高い存在です。そのため国の特別天然記念物で文化遺産にも指定されています。一体どんなところが特別なのでしょうか。

発見されたのは1965年

イリオモテヤマネコの存在が発見されたのは1965年のこと。ほ乳類の仲間が20世紀以降に発見されることは大変珍しく、当初は一属一種の新種として発表されたため注目を集めました。後にDNA分析によってアジアに広く生息するベンガルヤマネコの系統であることがわかり、現在はベンガルヤマネコの亜種に分類されています。世界に一つの種ではなくなりましたが、それでもほかの亜種とは異なる部分が多く、希少なネコであることは変わりません。

原始的なネコの特徴を残す生きた化石

イリオモテヤマネコにはほかの地域のベンガルヤマネコには見られない原始的なネコの特徴が残っています。頭骨などは、地質時代に存在していたネコの仲間「メタイルルス」に似ています。メタイルルスは新生代に絶滅したため、化石でしか見ることができません。そんな古い時代のネコの特徴が残っていることから「生きた化石」と呼ばれています。

小さな島の食物連鎖の頂点

西表島は沖縄県の中で沖縄本島に次いで広い島で、面積はおよそ289平方kmです。人から見れば充分に広い島ですが、イリオモテヤマネコのような中型の肉食獣が食物連鎖の頂点に立つことを考えると、本来はもっと広い面積が必要になります。食物連鎖のピラミッドを形成してバランスを保つには、多数の被捕食者の層が必要で、それを維持するにはある程度の広さが求められるからです。イリオモテヤマネコは異例の狭さの島で食物連鎖の頂点に立っていて、最小の島に住むヤマネコでもあります。

虫もカエルも爬虫類も食べる

では、本来はネコの仲間が生息できない広さの島で、なぜイリオモテヤマネコは生きていられるのでしょうか。答えはほかの野生ネコとちがって「何でも食べる」からです。野生のネコの食事といえば、ネズミやうさぎなど、小型のほ乳類がメイン。食事の種類は限られています。ところがイリオモテヤマネコは、ネズミのような小型の哺乳類だけでなくトカゲやヘビといった爬虫類、カエル、コオロギなどの昆虫、鳥類にコウモリと、さまざまなものを食べます。特にカエルはほかの野生ネコがほとんど手を出さない中、よく食べていることがわかっています。このように食性の幅が広いこともイリオモテヤマネコの特徴です。

水を嫌わず水辺によく現れる

幅広い獲物を狙うため、イリオモテヤマネコは水辺にもよく現れます。沢沿いにいることが多く、カエルが住む田んぼに現れることも。水を嫌うネコが多い中、平気で水に入って狩りをするだけでなく、大きな川で泳いでいる姿も目撃されています。

イエネコとのちがいは?

そもそも、イエネコとイリオモテヤマネコはどこが違うのでしょうか。イエネコはリビアヤマネコが飼い慣らされてさまざまな品種が生まれたもので、同じネコの仲間でも種が異なります。見た目にわかりやすい違いとしては、足も尾も太く、がっしりとしています。横顔はイエネコよりもトラやライオンに似ています。またイエネコは耳が三角にとがっているのに対して、イリオモテヤマネコは丸みのある形です。さらに耳の後ろには白っぽい斑があります。これは野生のヤマネコの仲間に共通する特徴で、イエネコにはないものです。

ツシマヤマネコとのちがいは?

日本の在来の野生ネコは2種いて、イリオモテヤマネコのほかにツシマヤマネコがいます。ツシマヤマネコは長崎県の対馬にのみ生息するネコで、こちらもベンガルヤマネコの亜種。同じ種なのでよく似ていますが、体はイリオモテヤマネコの方が大きめで、足やしっぽはより太くなっています。模様も似ていますが、全身の色はイリオモテヤマネコの方が濃いめ。斑点と地色のコントラストはツシマヤマネコの方がはっきりしているため、区別はつけやすいそうです。
ツシマヤマネコも季節や環境に応じて爬虫類やカエル、鳥や虫を食べることがありますが、主食はネズミ。ネズミが少ない冬は鳥がメインで、イリオモテヤマネコほど年間を通してさまざまなものを食べているわけではありません。

イリオモテヤマネコは絶滅危惧種

イリオモテヤマネコは環境省のレッドリストで最も絶滅の恐れが高い「絶滅危惧ⅠA類」に指定されています。小さな島に生息しているため本来の生息数も少なく、数100頭くらいと推測されていました。それが交通事故やイエネコが持ち込まれたことによるウイルス感染などでさらに減少。現在はわずか100頭ほどと考えられています。

【関連記事】
9月7日は絶滅危惧種の日。知っておきたい日本の絶滅危惧種のこと

イリオモテヤマネコに会うことはできる?

2024年現在、イリオモテヤマネコを飼育展示する動物園はありません。会うとすれば、西表島に行くことが唯一の手段になります。ただ野生のネコで警戒心が高いため、島に行っても必ず見られる保証はありません。見られるタイミングも日暮れから明け方に限られます。田んぼや道路に現れることもあるので、運が良ければ会える可能性はあるでしょう。ただ、多くの観光客がイリオモテヤマネコの生息地に入ることによって環境が壊され、さらに数が減ってしまうことも懸念されています。現地に行く機会があっても、生息地にはむやみに踏み入らず、運良く遭遇できることを期待するのが良いでしょう。

まとめ

日本の希少な野生ネコ、イリオモテヤマネコについて解説しました。実際に会うことはなかなか叶わないかもしれませんが、かけがえのない地球の仲間です。この種を守る一歩として、まず日本に住むわたしたち一人ひとりがその特別さを知り、共有していきたいですね。

ADVERTISEMENT
コメント0