9月7日は絶滅危惧種の日。知っておきたい日本の絶滅危惧種のこと

by 佐藤華奈子 2022.09.01

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絶滅危惧種といえば、どんな動物が思い浮かぶでしょうか。パンダやトラ、ゴリラ、サイ。地球上から絶滅する可能性がある動物はたくさんいて、それは遠い外国だけの話ではありません。私たちの身近にも絶滅の危機に瀕している仲間がいます。ここでは日本の絶滅危惧種について、知っておきたいレッドリストのことと、代表的な種をいくつか紹介します。

9月7日は絶滅危惧種の日

毎年9月7日は絶滅危惧種の日(Threatened Species Day)です。動植物の絶滅のリスクを認識し、その保護について考えることを目的に1996年にオーストラリアで制定されました。1936年のこの日、オーストラリアの動物園で最後のフクロオオカミが亡くなってしまい、同種が絶滅したことに由来しています。今では毎年9月7日に世界中で絶滅危惧種に対して理解を深めるためのイベントが開催されています。

絶滅危惧種が掲載されるレッドリストとは

レッドリストとは

絶滅危惧種とは、絶滅のおそれがある動植物の種や亜種のこと。それぞれの種や亜種の生息状況を調査し、絶滅のおそれがあるかどうかを評価してまとめたものが「レッドリスト」です。レッドリストの評価カテゴリーには、すでに絶滅してしまったものや、絶滅の危険がそれほど差し迫っていないもの、評価するだけの情報が不足しているものも含まれます。そのため「レッドリストに掲載されている」=絶滅危惧種とは限りません。


動植物の生息状況は常に変化しているため、数年おきに評価が見直され、更新されます。生息数が増えることでカテゴリーが下がり、絶滅危惧種ではなくなることもあれば、逆にそれまで絶滅の危険がなかった種の数が減り、カテゴリーが上がって絶滅危惧種になることもあります。


レッドリストにはIUCN(国際自然保護連合)が作成する世界版のほか、各国が作成するもの、またそれぞれの国の地域で作成するものなど、さまざまな種類があります。日本版は環境省が作成しているほか、都道府県版、市町村版がある場合も。環境省の最新版は2020年公表の「レッドリスト2020」になります。

環境省のレッドリスト

環境省のレッドリストは基本的にIUCNの評価カテゴリーに基づいているものの、独自に分けたものや採用していないものもあります。その評価段階は次のようになっています。


絶滅 (EX)…日本ではすでに絶滅したと考えられる種。
野生絶滅 (EW)…飼育・栽培下または自然分布域の明らかに外側で野生化した状態でのみ存続している種。
絶滅危惧I類 (CR+EN) …絶滅の危機に瀕している種。
絶滅危惧IA類(CR)…ごく近い将来に野生での絶滅の危険性が極めて高いもの。
絶滅危惧IB類(EN)…IA類ほどではないが、近い将来、野生での絶滅の危険性が高いもの。
絶滅危惧II類 (VU)…絶滅の危険が増大している種。
準絶滅危惧(NT)…現時点での絶滅危険度は低いものの、生息条件の変化によっては絶滅危惧に移行する可能性のある種。
情報不足(DD)…評価するだけの情報が不足している種。
絶滅のおそれのある地域個体群 (LP)…地域的に孤立している個体群で、絶滅のおそれが高いもの。


このカテゴリーのうち、絶滅危惧Ⅰ類(CR+EN)・IA類(CR)・IB類(EN)・II類 (VU)が絶滅のおそれのある種、絶滅危惧種と定義されています。


日本の絶滅危惧種の例

ここからは環境省のレッドリストの評価に基づき絶滅危惧種を紹介します。

絶滅危惧I類 (CR+EN)

絶滅危惧種の中でも、最も絶滅の危険が高いカテゴリーです。この段階には節足動物のカブトガニがいます。

カブトガニ

カブトガニ

およそ2億年前からほとんど姿形が変わらず、生きた化石と呼ばれています。秋冬はやや深い泥底で生活し、初夏に浅瀬に移動して夏に産卵します。孵化した幼生はその場にとどまり、脱皮を繰り返して成長します。大人になるまでに10数年かかると考えられていますが、その間の詳しい生態は未だに明らかになっていません。国内の生息域は瀬戸内海沿岸、九州北部沿岸の遠浅の砂浜が広がる海岸。かつてはこの範囲に広く生息していましたが、海岸の整備や開発によって生息域が狭められ、絶滅の危機に瀕しています。

絶滅危惧IA類(CR)

ごく近い将来、野生での絶滅が危ぶまれている種として、次のような種があります。

ツシマヤマネコ

ツシマヤマネコ

対馬だけに生息するヤマネコの仲間。東南アジアに分布するベンガルヤマネコの亜種と考えられています。対馬が大陸とつながっていたことを示す学術的に貴重な種です。イエネコに似た姿で、額に縞模様、全身に斑点模様があります。開発による生息地の減少や交通網の発達による生息地の分断、交通事故などにより急激に減少してしまいました。1960年代の調査では最高300頭と推定されていましたが、1995年前後の調査では推定70~90頭に。2010年の調査では70~100頭となり減少傾向には歯止めがかかっていますが、絶滅の危機にあることに変わりはなく、今も保護増殖事業が続けられています。

ラッコ

ラッコ

ラッコは日本では北海道の一部に生息していますが、おもに乱獲によって数が減り、絶滅の危機にあります。日本だけでなく世界中で減少傾向にありIUCNのレッドリストでも絶滅危惧種(EN)に指定されています。ワシントン条約付属書Ⅱに記載され国際的な取引も規制されています。野生のみならず国内の水族館で飼育されているラッコも減少し、現在はわずか数頭に。新たに輸入することも難しく、近い将来、水族館で見られなくなる可能性が高まっています。

トキ

トキ

ペリカン目トキ科の鳥。翼を開いた長さは130㎝ほどになります。白い体で後頭部に冠羽があり、クチバシは黒く、顔と脚は赤です。かつては東アジアに広く分布していましたが、20世紀後半には日本と中国以外では絶滅しました。日本では江戸時代まで全国に生息していたものの、乱獲や生息環境の悪化で急激に数が減り、やがて新潟県佐渡に生息するのみに。


佐渡で保護活動が行われましたが、2003年に最後の日本の野生個体「キン」が死亡しました。その後は中国からもらい受けた野生個体を人工繁殖で増やし、2008年に放鳥を実現。2012年には野生下での繁殖が確認され、2015年には野生個体数が約150羽に。2021年時点では推定484羽と発表されています。

コウノトリ

コウノトリ

翼を広げると約2mにもなる大型の鳥です。「クラッタリング」というクチバシをカタカタ鳴らす方法でコミュニケーションをとることでも知られています。明治初期までは全国で見られていましたが、乱獲や農薬の使用による生息環境の悪化などが原因で急激に数が減りました。1971年には兵庫県豊岡で最後の野生個体が死亡して野生絶滅となりました。1985年に現在のロシアから同種の野生の幼鳥をもらい受けて繁殖。2005年に放鳥が始まり、2007年に野生での繁殖を確認。野生の個体数は2002年に100羽を超え、2022年7月末時点で300羽を超えたことが確認されました。


このほかイリオモテヤマネコ、エラブオオコウモリ、二ホンアシカ、ジュゴン、ヤンバルクイナ、シジュウカラガン、エトピリカなどがこのカテゴリーに入っています。日本に存在する野生のネコは「ツシマヤマネコ」と「イリオモテヤマネコ」の2種のみですが、そのどちらも絶滅危惧IA類に分類されています。


絶滅危惧IB類(EN)

IA類ほどではないものの、近い将来、野生での絶滅が危ぶまれる種です。

二ホンウナギ

二ホンウナギ

ウナギは日本人にとって身近な絶滅危惧種です。二ホンウナギは2013年に環境省のレッドリストでそれまでの情報不足(DD)から絶滅危惧IB類(EN)に見直されました。2014年にはIUCNのレッドリストで「絶滅危惧種(EN)」に指定されています。ウナギが減っている原因のひとつとして2000年代に入ってからの大量消費があげられていますが、現在も食されています。


食文化を守るためにも、養殖技術や生態研究が日々行われています。養殖うなぎを口にする機会も多いですが、稚魚はほとんどを天然に頼っているため、完全養殖を実現させるには、謎につつまれたうなぎの生態を解明することが最大のカギと言えるでしょう。


アカウミガメ

アカウミガメ

甲羅が赤みがかっていることからアカウミガメと呼ばれています。日本は北太平洋地域の産卵地の北限で、太平洋沿岸の砂浜で産卵をします。網を使った漁で混獲されてしまうことや、産卵場所となる砂浜の減少などによって存続が脅かされています。IUCNのレッドリストでは危急種(VU)となっています。


このほか、アマミノクロウサギ、ケナガネズミ、エチゴモグラ、クマタカ、イヌワシ、ライチョウ、ムツゴロウなどが同カテゴリーとなっています。

絶滅危惧II類 (VU)

絶滅の危険が増大している種として、次の種があげられます。

タンチョウ

タンチョウ

日本で産卵をする唯一のツルで、翼を広げると2m40cmにもなる国内最大級の野鳥です。頭頂部に羽がなく、皮膚が赤くなっているのが特徴。おもに北海道東部の湿地に生息しています。江戸時代には関東で見られることもありましたが、明治に入り乱獲と生息地の減少により激減しました。大正時代には絶滅したと思われていましたが、大正末期に釧路湿原で十数羽を再発見。保護活動が行われ、2021年時点で1,800羽まで回復しています。

ミナミメダカ・キタノメダカ

メダカ

メダカは日本全国に生息するなじみの深い魚ですが、生息地の減少や外来種による補食で減少し、保護が必要な絶滅危惧種となりました。さらに近年、遺伝子の解析によって「ミナミメダカ」と「キタノメダカ」の2種に分類されました。


ミナミメダカはさらに遺伝的に異なる9つの地域集団がいることがわかっています。大きく移動する魚ではないため、それぞれの地域に適応した姿形をしているのです。単に「ミナミメダカ」「キタノメダカ」という種を守るのではなく、各地域のメダカを守っていくことが大切になります。現在、各地で地元のメダカを守るさまざまな保護活動が展開されています。


このほか絶滅危惧II類 (VU)のカテゴリーにはトウキョウトガリネズミ、ヤマコウモリ、モリアブラコウモリ、ニホンザリガニ、ヤシガニ、アホウドリなどがいます。

まとめ

日本は南北に長いため、暖かい地域に生息する種もいれば、寒冷地に生息する種もいます。また海で暮らす種もいれば、山奥で暮らす種も。ここで紹介したほかにもたくさんの絶滅危惧種がいて、生態がよくわからないまま、人知れず絶滅に向かっている種もあります。今後も多様な動物種と共存して生きていくために、まずは身近な絶滅危惧種を知ることから始めてみてはいかがでしょうか。

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コメント1

フランスパンのおかかご飯さん

すごくわかりやすかったです!!
でももう少し種類を増やしてほしいです

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