海の向こうからいぬ語り⑪一日「黙る日」を作ってみる

by 藤田りか子 2019.04.15

一日、まったく言葉を使わないで、犬とコミュニケーションをとる日を作ってみよう! ボディランゲージの大事さを学べること請け合いだ。


人間は“言葉の動物”だから、あれやこれやと犬に話すことも多いだろう。もちろん、犬に話しかける、という効果が人にとってとてもいいのは、子供のための「読解力介在犬」などもいるぐらい、明らかではある。読解力介在犬とは、子供が本を犬に読んで聴かすことで、読解力を向上させるための教育介在犬だ。


一方、人の話しかけ、というのは犬にとっては、どんな効果があるのだろう。


「一日、愛犬に対して黙る日を作ってみなさい」


とアドバイスするドッグ・インストラクターに、最近何人か出会った。誰が言い始めたのか知らないが、とてもいい方法だと思った。


例えば、犬においで!というのに、何度も「おいで、おいで、おいで、おいで!」を繰り返す人がいる。言葉に頼りすぎていて、犬とのコミュニケーションには、かえって逆効果。言葉というフィルターがかかり、人は犬を観察する目を失いがちだ。


かたや、犬の方は、言葉による会話もせずに、私たちや他の犬たちと、なんとかやりあっている。もちろん、時には吠えるが、犬の世界とはかなり「寡黙」なものである。少なくとも人に比べると...!


ならば、まったく言葉に頼らずに、一日愛犬と過ごしてみる。むしろ「寡黙」な犬の世界に自分から一歩踏み込んでみる。その中で愛犬と自分のコミュニケーションについて多くを学べるのではないか。




日常に必要なコマンドは、ハンドシグナルでほぼ事足りる。呼び戻しは、犬が飼い主を常に観察していることが大事。体の向きを変えれば、犬はついてくる。一日黙るわけだから、当然「ダメ」という言葉を使ってはダメ。「座れ」「待て」「おいで」も言葉に頼らない!


じゃあ、この代替となるコミュニケーション方法は?というと、ボディランゲージになるのだ。そして、「黙る」コミュニケーションで得られるオマケというのは、自分が黙るゆえに、犬に対して鋭い観察眼を持つようになること。犬が何をしているのか、何が頭によぎっているのか、そんなことをつぶさに観察できるようになる。もしかして言葉に頼っていたら、ほぼ、見逃していることかもしれない。


散歩中に勝手な方向に犬が行くのを阻止するためには、「行こう!」と犬が思った瞬間を観察から先読みをして、体で犬の行く方向をブロックする。あるいは「こっちだよ」と手で(トリーツを持っていてもいい)誘導して、元の位置に戻す。犬がまだ行動を起こしていなければ、こちらに注意を向けるのは、さほど難しくない。肩の方向を変えるだけで、反応してくれることもある。


ただし、犬がすでに行ってしまってから、注意を促すことになると(つまり飼い主が先読みをしていない場合)、犬の気持ちはその行きたいという場所にほとんど100%釘付けされてしまうために、コミュニケーションは難しくなる。こういう時、言葉を使っていれば、「来い!」とか「ダメ!」とか、大声を出したくなることだろう。こんな風な状況に陥らないためにも、寡黙でコミュニケーションをする際には、先読みが必要なのだ。


つまり、やって欲しくない動作を矯正する、ではなく、やろうと犬が感じた瞬間を観察することに、神経を集中されたい。犬が自ら飼い主に引き寄せられている状態であれば、なおベストだろう。これなら、矯正を考えること自体、不要である。




ひとつ注意をしたいのは、身体的な罰では、犬と会話を交わさないこと。犬がなかなか鼻を地面から離してくれなかったら、リードで引っ張るのではなく、犬の鼻の前に立ちはだかり、体でプレッシャーをかけるとか、それでもうまくいかなければ最終手段、犬の頭を手でそっと持ち上げるのもいいだろう。リードで首を引っ張るよりは犬への負担がはるかに少ない。


私も実際に何回かやってみたが、とても楽しい時を過ごせるということに気がついた。別に「黙る日」だからって、特別なことをするのではなく、普段通り、犬と接するだけ。「座れ」も「伏せ」も、実は普段から口語のコマンドと共に手のジェスチャーも使っていたから、それでうまくゆく。「あっちへ行って、休みなさい」も、手をかざすだけ。「こちらに来るんだよ」という私の意志も、体の向きによるボディランゲージで理解してくれた。


そのうち、黙っていることで、何となく「自分は犬の感情世界とシンクロしているんだなぁ」という気持ちにもなってくる。初めは難しいかもしれない。いきなり1日、ではなく、最初は散歩の間だけ、半日だけ、など、ゆるりと始めてみよう。「座れ」「待て」のハンドシグナルを持っていない人は、まずそれを教えてから「一日寡黙の日」を実行してもいいだろう。


「褒めるのも、黙っていなければならないんですか?!」という質問も当然くると思うが、これこそ、体中のコミュニケーションで、ご褒美を与えるのはどうだろう。意外と言葉はいらないことに気がつくだろう。優しく顎の下をなでてあげる。お腹をさすってあげる、耳をマッサージしてあげる。あるいは、遊ぶよ!というジェスチャーをしてポケットから勢い良くボールやおもちゃを出して、犬を誘ってみる。


私は、犬を褒めるために、大げさに「いい子!いい子!」と叫ぶのは、あまり好きではない。それは私の犬に限れば、彼はすぐに舞い上りやすいタイプだから。そして、そんな言葉をかけられた犬だって、果たしてその意味をわかっているかどうか疑わしい。言葉を使うときでも、嬉しそうに言葉をかけるにはかけるが、扇動するようでは、犬としては今ひとつ、気持ちが落ち着かないだろう。




最後に、寡黙コミュニケーションを成功させるためのもうひとつの秘訣は、犬も飼い主に対して注意を向けている、ということだろう。このエクササイズを何回か続けているSさんという飼い主は、犬の観察眼に対してこんな風に語ってくれた。


「まずは散歩の中で、黙って犬に接するという自分のトレーニングを始めました。簡単なコマンドを、ハンドシグナルで示すことを繰り返しているうちに、私は愛犬が逆に、私に対してとても観察の目を向けてくれることに気がついたんですね。


私が何をやっているか、犬が集中してくれているというか。というのも、私がボディランゲージでコミュニケーションを取ろうとするから、だと思うんです。犬もその状態に慣れてくれた。寡黙にする日というのを何回か繰り返しているうちに、私と愛犬の普段のコミュニケーションも格段と向上したように思えます」


※本記事はブログメディア「dog actually」に2016年6月8日に初出したものを、一部修正して公開しています


【この連載について】

世界中どこでも、人がいるところには犬がいます。両者の関係も、国が違えば千差万別、十人十色! スウェーデン在住のドッグライター・藤田りか子さんが、海の向こうからワールドワイドな犬情報を提供してくれるこの連載。あなたの常識を吹き飛ばす、犬との新しい付き合い方が見つかるかも?


【藤田りか子 プロフィール】

スウェーデン在住。レトリーバー2匹と暮らす。トレーニングは趣味、競技会はパッション。著書に「最新世界の犬種大図鑑(誠文堂新光社)」。犬雑誌「TERRA CANINA」編集者、Web「犬曰く」で活躍。

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