by 藤田りか子 2019.11.14
犬が地域内での人々のつながりに大きな役割を担っている、ということが、学問的研究によっても明らかになっている。犬が地域を助けるのなら、その逆も真なり。地域が飼い主 を助ける、というのが、今回のテーマだ。
さて、私は、スウェーデンのど田舎に住んでいる。もっとも近い町ですら、30kmの距離がある。ただし、その町の人口はたったの5,000人。そこからさらに30km車を走らせると人口8万人の、ようやく都市らしい街にぶつかる。
こんなに人口がまばらな地域ではあるが、犬に関するアクティビティがとても活発だ。それは、なんといってもフェイスブックの普及のおかげ。フェイスブックは、ご存知の通り、個人間のソーシャルメディアだけではなく、グループでも何かテーマを持って独自のページを作り上げることができる。私の地域、グルムスには、たとえば「グルムス・犬の散歩グループ」というのもあれば、「グルムス・ショードッグ・ハンドリングと社会化トレーニング・グループ」、「グルムス・ワーキングドッグ・クラブ・グループ」、というのもある。
さらに、県単位で、「レトリーバー・フィールド・トレーニング・グループ」や、「我らの県の犬に関するアクティビティ・グループ」などなど。犬種やドッグスポーツによっても、地域ベースのフェイスブック・グループは他にもたくさんある。そして素晴らしいのは、いずれのグループもただ、コンピューター上でチャットを楽しむだけのものではなく、実際に皆が集うために存在していること。それも年に数回とかいうのではなく、ほとんど一週間に一度というペースで集まる。それもこれも、「地域」単位でグループを作っているためだ。これがたとえば、通常の犬種クラブだったりすると、全国をカバーしているから、年に一度のイベントでも企てない限り、簡単に集会を催すことができない。それに、犬のイベントというのはたいてい首都圏を中心に行われるものだ。地方に住む人は、いつも取り残されがち。
そして地域でグループを作ってくれる利点は、たとえ周りに犬友達がいなくても、その地域の似たような「犬趣味」を持つ人と知り合えること。集まりは、フェイスブックで告知されるから、「え、そんな集まりがあったの、知らなかった!」とイベントや集会を見逃すこともない。
上の写真は地元の集団散歩のシーンだ。中には乳母車をひきながら犬を散歩する人も。ひとりで寡黙に歩くよりも、皆で散歩する方が、楽しい。だいたい一時間半ほど歩くのだが、時間はあっという間に経つ。そして、愛犬への素晴らしい社会化トレーニングの機会ともなる。
とくに犬の社会化トレーニングに飢えている人には、地域による集まりは、もってこいの機会だろう。私の愛犬のラッコは、決まった犬とばかりしばらく会っていた時期があり、思春期ゆえ、知らない犬をみると、非常に興奮してストレスレベルをあげまくっていたものだ。しかし、地域の散歩グループにフェイスブックを通して入り、毎週2回、集団散歩をする機会に恵まれるようになった。おかげで今は、他の犬を無視して通り過ぎるのがだいぶ上手になった。
ショードッグ・トレーニングについても同様だ。全国レベルのショードッグ愛好会に入っているだけでは、なかなか皆が集まる機会がないものだ。しかし地域グループのおかげで、週一度、アフターファイブに工場地帯にあるトラック専用の大きな駐車場を借りて、トレーニングを行う。ショー・ドッグトレーニングといっても、ここにも、社会化トレーニングがもりだくさん。きちんと愛犬にショーポーズを取らせている間、他の犬はポーズを決めている犬たちの間をジグザグに歩く練習を行う(そして犬はつねにハンドラーにコンタクトを取り続ける)。こんな練習を通して、他の犬を無視して飼い主に集中することを覚える。つまり「日常オビディエンス」が培われるのだ。いずれの集まりも、無料である。誰かが開催しているのではなく、自発的に集まっているグループだからこそ、だ。
地域単位のレトリーバー・グループでは、春から毎週一回、フィールドトライアルの練習試合すら行っている。こうして競技会に出れるよう、日常的に腕を磨くこともできる。私は、レトリーバー仲間が皆、遠くに住んでいるので、このグループがなかったら、随分トレーニングが遅れていただろうなぁ、と、自分の与えられた環境につくづく感謝している次第だ。そして、何も都市圏に住まなくても(特に私のような森の奥の田舎に住んでいても)、十分に犬のアクティビティのアップデートは受けることができる。
地域単位の利点はまだまだある。ローカルレベルだからこそ、初心者もカジュアルにグループの中に入りやすい。ここから犬のことについて、多くを学んでゆくこともできる。そして、なんといっても無料。この気軽さから、犬とのトレーニングの面白さに目覚めて、最終的にはプロからトレーニングを教わりに、きちんと教室に通う人もたくさんいる。犬のレベル、そして犬の飼い主のレベル、犬への意識の高さを助長するには、まずは、こんな地域ぐるみの犬活動が大事ではないかと思う。
そして知識が増えれば増えるほど、おかしな犬の飼い方をする人も減り、結果、問題行動も、かなり減るはずだ。となれば、「飼いきれません」といって犬を手放す人の減少につながるだろう。
地域。大事である。皆さんの周りには、地域ぐるみでの犬活動グループ、ありますか?なかったらさっそく自分でフェイスブックのグループを作ってしまおう!とくに地元ベースの散歩グループはおすすめ。やってみると、意外に人が集まるかも!
※本記事はブログメディア「dog actually」に2015年6月3日に初出したものを、一部修正して公開しています。