海の向こうからいぬ語り③ 学術的に証明されつつある「体罰訓練」の効果のよしあし

by 藤田りか子 2018.05.15

褒めるだけでしつけるのは、可能であると思うが、確かに難しい。これは「優しさ」だけではなく、飼い主にそれ相当の訓練方法に対する「クリエイティビティ」や、犬のボディランゲージを理解する力が要求される。


犬のボディランゲージ本の著者として日本では有名なドッグトレーナー、ヴィベケ・リーセさんは、「私がクリッカー・トレーニングのトレーナーを養成するときは、まずその人が犬を読める目をもっているかテストをしてから、生徒を取るのよ」といっていたぐらいだ。犬に対する「思いやり」だけでは、優秀な「褒めるだけの訓練者」になれないということでもある。


よって、われわれ多くの「アマチュア」飼い主は、褒める&ときどき罰する(あるいはダメという)の「まぜこぜ・メソッド」で、愛犬にマナーを入れたり、訓練をしているのが現実の状況ではないかと思う。




実際に、調査をしてみると一般の犬の飼い主のうち、約20%が褒めるだけの方法で犬のしつけ・訓練をしており、罰だけによる訓練をする人は約10%、そして半数以上の人は、その褒める・罰するのまぜこぜで訓練をするという。ちょっと古くなるのだが、これは13年前、2004年のイギリスのHiby. E.Fらの報告だ。


訓練の効果と訓練方法の相関関係を調べてみると(前述の研究者達による)、褒める方法だけで訓練を行っている人ほど、達成度がよかったという。そして最高得点を取ったのは、やはり褒めるだけの訓練で行った人だというから、罰による訓練は、限界があるということだろう。


だからといって、罰するだけの訓練と訓練達成度の間に、何らかの相関関係(マイナスにしろプラスにしろ)があったわけではないそうだ。これはおそらく、罰する訓練だって、できる人がやればうまく行く、ということを示唆している。


歴史的にみても、かつては罰する方法でほとんどの訓練がなされており、多くの優秀な職業犬が巣立っていった。シーザー・ミラン風、ニュースキート風の訓練が昨今、トレーナー界のみならず獣医師界でも大きく問題になっているが、確かに彼らがやれば、うまくいくのである。


ただし、とHibyらはこう結論している。


「訓練しつけというのは、結局ほとんどは経験の浅いアマチュアの飼い主によるものだ。犬の行動学についての知識を持たないから、罰するタイミングが合っていなかったり、あるいは罰し方が一定していなかったりする。だから、素人がやる『罰する訓練法』は犬に情緒不安をもたらしたり、問題行動の原因になり、かえってお行儀よく行動する妨げにもなるものだと思う」


【関連リンク】
・シーザー・ミランについて知りたい方はこちら
・ニュースキートについて知りたい方はこちら




電気ショックカラーによる犬のストレスを研究したSchalkeら(2007年)も、罰によるタイミングの大事さについて報告をしている。


電気ショックがやってくるタイミングを誤ると、犬は次に何が起こるか予想ができず、ストレス状態に陥る。しかし、タイミングがあっていて、「こうすれば、事が避けられる」と予想がつけられると、犬はストレスを感じずに学習できるそうだ。


となれば、クリッカートレーニングが上手な人が、罰による訓練を行っても、上手に行うはずである。なぜなら彼らはタイミングを読む術を心得ているからだ。タイミングは物言わぬ動物にとって、学習にとても大事な要素だ。




しかしタイミングの善し悪しだけが、罰による訓練方法を正当化する理由にはならない。もうひとつ、罰による訓練と問題行動の関連性を裏付ける、ペンシルバニア大学の獣医学教室、Herronらによる2009年の研究について言及したい。


そこではテレビなどのショーによって一般の人々に伝授されている「ネガティブ」な訓練法に、やはりとても懐疑的に意見を述べている。


というのも、彼らの研究で分かったのは、「蹴る・叩く」や、有名な「アルファ・ロール(犬をあお向けにして行うしつけ法)」などの懲罰によって、犬がより反抗的な態度にでてしまう可能性が大、ということ。これは、犬にダメージを与えるだけではなく、飼い主をも危険にさらすと警告までしている。


この調査では、さらにリードを引っ張ったりチョークチェーンを使うなどの訓練を行う飼い主のうち、半数以上がその結果に満足しているという統計が出た。が、犬が人間の欲するように行動したのは、単に一時的なものだろう、と著者は結論している。


「というのも...」と、さらに、つっこむ。


「犬がたまたまその飼い主の罰し方に対して、攻撃的に振舞わなかったのだろう。だからこそ、犬が怖がっているという事実を見過ごしてしまっているのではないか」




犬の訓練について、そのメンタル面での幸福感について、まだまだ研究は続きそうだ。とどのつまり、訓練の研究など、どうしてしなければならないのかと問うてみると、やっぱり犬達に、私たちの社会で嫌われないように、協調できるように暮らしてもらうため、訓練はどうしても避けられないものだからなのだろう。さもなければ、犬の自然に任せておけばいいはずだ。


そしてもうひとつ、犬と協調関係を結べたとき、そのときに得られる気持ちの一体感といったら他の何物にも変えられない充実感と幸福感をもたらしてくれる。犬は、そんな素敵なフィーリングをくれる数少ない、我々人間以外の動物でもある。


※本記事はブログメディア「dog actually」に2012年2月15日に初出したものを、一部修正して公開しています


【この連載について】

世界中どこでも、人がいるところには犬がいます。両者の関係も、国が違えば千差万別、十人十色! スウェーデン在住のドッグライター・藤田りか子さんが、海の向こうからワールドワイドな犬情報を提供してくれるこの連載。あなたの常識を吹き飛ばす、犬との新しい付き合い方が見つかるかも?


【藤田りか子 プロフィール】

スウェーデン在住。レトリーバー2匹と暮らす。トレーニングは趣味、競技会はパッション。著書に「最新世界の犬種大図鑑(誠文堂新光社)」。犬雑誌「TERRA CANINA」編集者、Web「犬曰く」で活躍。

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