海の向こうからいぬ語り② 見つめるレトリーバーのヒ・ミ・ツ ♡

by 藤田りか子 2018.04.16

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レトリーバーが世界で一番楽しい犬種グループだと思っているのだが、「そりゃ、飼い主の贔屓目ってものよ」などと冷ややかに薄笑いを向けられる。


ところが、実はその根拠は科学的にも証明されている。犬認知学の世界では、レトリーバーの社交性やワーキング性能のすばらしさを裏付ける数々の学説が存在するのだ。中には、レトリーバーが一番アイコンタクトをしやすい犬だとも!


どうりであの協調心、積極性、陽気さ、単純さ。無意味に辺りを見張って吠えたるすることもないし、働くのが好き。社交的。これでいよいよ胸をはって「レトリーバーが世界一!」と世間に叫ぶことができそうだ。




私はレトリーバーを飼う前は、牧畜番犬のような、モソモソとした大型犬を飼っていた(レオンベルガーという犬種だ)。頭もいいし、のんびりしているから、十分楽しんでいたのだが、レトリーバーと暮らし始めて何に心を打たれたかって、そのアイコンタクトの頻繁さである。


ろくろく、訓練もうけていない、ブリーダーからもらわれて来たばかりの8週目の子犬なのに、まぁ、なんとこちらの目をみることよ! あまりにもよく見てくれるので、なんとなく胸がくすぐったい思いすらしたものだ。こんなに初めから犬に見つめられることに慣れていないよ。


何はともあれ、ここから私の楽しいレトリーバー生活が始まった。




犬とコミュニケーションを取るのにまずはアイコンタクト、というのは、まじめに犬をしつけたり訓練している人なら誰でも経験的に知っている。あるいは、犬とアイコンタクトが取れていないときに何かをいってもまるで聞いてくれない、という苦い経験も味わっているはず!


となれば、生まれつきアイコンタクトがいい犬であれば、よりコミュニケーションが取りやすいとも言えるのだ。




特にレトリーバー種を引き合いに出して、そのアイコンタクト能力を証明したのは2010年のこと。アルゼンチン、ブエノスアイレス大学のヤコチェビックらの研究だ。


初期の犬の認知学の研究だと、人間がキューを出してそれを理解するかどうか、というところが問われていたのだが、この発表が面白いのは、犬が自らアイコンタクトを取りにいくかというところ(犬が自らアイコンタクトを取るという研究は他でも行われている)。


以前は、オオカミに比べて犬がどれほど人間にアイコンタクトを取るかという部分で比較がなされていたのだが、だんだん、みんなその実験結果に懐疑的になってきた。というのも、実験に使われている犬がシェパードやボーダー・コリー、そしてレトリーバー系など、いずれもすでに訓練性能が高い犬ばかりなのだ。


「あんな訓練性能のいい犬使っているんだから、オオカミよりアイコンタクトがよくてあたりまえじゃないか」と指摘する人もでてきた。実際、実験での結論として犬の方がアイコンタクト欲が強く、これぞ家畜化で培われた特別な性能だと、誰もがかき立てた。


ブエノスアイレスの実験のユニークさは、もしかして犬種の間にもアイコンタクト度の違いがあるかもしれない、ということを調べた点だ。比較したのは、ジャーマン・シェパード、レトリーバー種、そしてプードル。


実験では、こちらを見るたびにトリーツのご褒美を与える。それを教えた結果、どれほどアイコンタクトを取るかを調べた。


一方で、ある時、こちらを見てもトリーツを与えなくする。それでもじっとアイコンタクトを続けるかどうか。この実験で、それでもしつこく人間の目を見つめ続けていたのはレトリーバー種であり、ダントツ一位であった。


ほら、やっぱり。レトリーバーはコミュニケーションがとても取りやすい犬だと、これで客観的に証明された。ワーキングドッグだから人間とのコミュニケーションが強い犬が過去に選択されてきたからともいえるが、しかし牧羊犬のシェパードだって立派な職業犬種。それを上回るのだから、あっぱれ!




この実験は確かに、犬種によってアイコンタクト度の違いを証明した。ただレトリーバーを起用したのはよかったが、シェパードとプードルも比較に入れたというのは理解できない。いずれも、かなりアイコンタクト度のいいワーキングドッグだからだ。どうせなら、独立気質であるハウンド系の犬とかチワワのような生粋の愛玩犬も入れて欲しかった。


それから、この実験はおそらく普通の家庭で飼われているペット系の犬を使って行われたと思われる。もし、フィールド系のレトリーバーとワーキング系(警察犬訓練などに使われている系統)の犬が、アイコンタクトを競ったら?


私の予想では、やはりレトリーバーの方がアイコンタクト度は強いのではないかと。ここまでのレベルに来ると、シェパードとレトリーバーでほとんどワーキングとしての性能に差はないのだが、やはり護衛犬と鳥猟犬の違いが差をつけると思う。護衛犬の方がその職業上、アイコンタクトというかボディランゲージにナーバスなところがある。それは、なんでも疑ってかかるという気質にも起因する。その点、鳥猟犬は能天気である方がよろしい。狩猟の時に他の犬と喧嘩してはいけない。


やはりレトリーバーというのは、一緒に暮らしやすい犬なのだ!


※本記事はブログメディア「dog actually」に2012年8月23日に初出したものを、一部修正して公開しています


【この連載について】

世界中どこでも、人がいるところには犬がいます。両者の関係も、国が違えば千差万別、十人十色! スウェーデン在住のドッグライター・藤田りか子さんが、海の向こうからワールドワイドな犬情報を提供してくれるこの連載。あなたの常識を吹き飛ばす、犬との新しい付き合い方が見つかるかも?


【藤田りか子 プロフィール】

スウェーデン在住。レトリーバー2匹と暮らす。トレーニングは趣味、競技会はパッション。著書に「最新世界の犬種大図鑑(誠文堂新光社)」。犬雑誌「TERRA CANINA」編集者、Web「犬曰く」で活躍。

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