2019.12.06
この間、犬のトレーニング仲間と話し合ったことなのだが、犬は必ずしもいつも撫でられることを好んでいるわけではないという結論に達した。一方で、犬は撫でられると「フィーリング・グッド」ホルモンのオキシトシンが血中に出て幸せ感を感じる、というのは最近になって科学的に証明されてきたことだ。ただし、われわれ飼い主とは、犬との付き合いの前線に立つ者であり、たえず科学的説明と現実について比較をしたり、検証をしたり、反論できる立場でもある。
撫でられて嬉しいのも状況次第、と言いたい。
たとえばソファで一緒に横になっている時は、確かに犬も体を完全に預けてこちらが撫でるとじっとしているものだ。目も閉じられているようなら、これは絶対にフィーリング・グッドの瞬間である。ただし、犬が遊んでいる時とか、はしゃいでいる時、前方に怪しい人や気になる犬がいて警戒している瞬間などに、撫でたら?みなさんの犬はどう反応するか、確かめられたい。
もちろんテンションの度合いは個体差なので、すべての犬が同じ反応をするわけではない。しかし、多くの犬は、なんとなく嫌がっているボディランゲージを見せるものだ!そう、ボディランゲージ。こういう時こそ、この知識が役に立つ。犬のあくびを見ていつも「カーミングシグナル」と解釈するようでは、まるで「XXの一つ覚え」のようではないか。ボディランゲージの知識の「賢い」使い方というのは、ある一つの動作を「犬の行動にあてはめて」解釈することだけではない。あらゆる状況で「本当に犬は心地よく思っているかな」を確かめるためにも、多いに使用されたい。
撫でた瞬間に、犬はどう反応するだろう。頭をもっとこちらへ寄せてくるだろうか。あるいは、顔をふっと向こうにそらしたりはしないだろうか。あるいは、顔だけではなく、体ごと後退させる犬もいる。困ったことに、私たちは「犬は撫でられて嬉しいと感じるはず(とくに自分の犬の場合)!」という大きな思い込みがあるために、これら微妙な仕草を、ボディランゲージの知識を持っているにもかかわらず、見逃している場合が多々ある。
だから、それでもこちらは撫で続けようとする。と、それに反応をして、耳を引いていたり、プレイボゥ(身を低くしてお尻を高くする姿勢)や伸びをして「しんどいなぁ」という気持ちを見せる、あるいはこちらをなだめ始める犬もいる。
▲犬がこんな風にノリノリになってはしゃいでいるときに、撫でてみよう。多くの犬は、我慢しているといわんばかり、あまりいいボディランゲージを出してくれない。
私の犬を例にとると、ラッコは私が暖炉に火をつけている時に必ず意気揚々とこちらにやってくる。暖炉の前でかがんでゴソゴソしている姿が、彼には「愉快」に感じられるのだろう。そして遊ぼう!はしゃごう!と誘ってくる。たいてい朝の寒い時でこちらもはしゃぐ気力がないから、ラッコの胸や口周りを撫でてその場をごまかそうとすると、彼は必ず後退するか、顔を背ける。私もしばらくこのラッコの反応を気に留めていなかったのだが、友人とディスカッションをしている間に、そういえば、と気がついた。もちろん、ラッコは運動から帰った後に、暖炉の前に陣取り、私と一緒に寝転がったり撫でられるのは大好きである。
スウェーデンの「スカンディナビアン・ワーキング・ドッグ協会」のトビアス・グスタフソンさん(犬のトレーナーでもあり生物学者でもある)が、「大事な遊び」というセミナーで繰り返し述べていることも思い出された。
「ひっぱりっこの遊びをしている時に、われわれが思わず犬に手を出すことで、犬は心理的に結構しんどい思いをしているものです。ただし、たいていの犬は遊ぶことの楽しさの方が打ち勝って、遊びを止めたりはしません。しかし遊びをご褒美として使いたいのなら、犬に心から楽しいと思ってもらわなければ役に立ちませんね。だから、人間の手で撫でられることに、徐々に慣らすことが大事です」
▲エヴァ・ボットフェルトさんのトレーニング・シーンから。トリーツを目の前に見せて同時になでる。トリーツと撫でられる、という連想をさせるため。撫でる、という行為をご褒美にするための方法だ。トレー二ング中のように、犬がハイテンションになっているときは、必ずしも、撫でられるのを犬は好まない。
スウェーデンのドッグトレーナーの第一人者でもあるエヴァ・ボットフェルトさんも、犬に「つけ」で歩かせる時、犬を撫でながら、ご褒美を与えようとする。それは「つけ」のパフォーマンスを与えている場合、犬は集中していてテンションが非常に高くなっているので、こういう時こそ犬は触られるのを嫌がるものである。しかし「撫でる」という行為をご褒美として使うために、まずは撫でてはトリーツを与えることで、人間の手を「ポジティブなもの」として経験させようとしている。
犬をただマスコットとして飼っていると、こんな風な観察はなかなかできるものではないと思う。しつけをしたり、トレーニングをすることで、私たちは犬と積極的に関わることになる。すると、彼らのさまざまな仕草や微妙な動作に気づくことができる。あるいは、自分が犬に何をしているのか、と時々立ち止まって自問する機会も得られる。と、これが犬への大いなる理解にもつながるし、結局犬に対しても幸せを与えることになる。
毎回いろいろなことを発見して、知識を得ることができるのも、犬と暮らす楽しさのひとつだ。
※本記事はブログメディア「dog actually」に2014年12月3日に初出したものを、一部修正して公開しています。