by 藤田りか子 2019.12.25
▲北欧の国、デンマーク初の読解力介添犬、アスラン。子どもが本を読んであげている間、一生懸命聞いている(...というかフリをする)。犬が側にいるという満足感が、子どもの本を読みたい欲を促す。
―ソファにすわり、本を開いた。すると、隣に座っていたアスランは、ぴったり側に寄ってきて横たわった。その白熊のような大きな頭をそっと私の膝に置いた。5秒、10秒...まだそのまま。アスランのぬくもりが、腿から体全体に伝わってくる。なんという温かさ!これを平和と呼ばずになんといおう。体の中で、幸せホルモンのオキシトシンがジンワリ全開しているのがわかった。そしてしばらく静かに1頭とひとりで本読みを楽しんだー
今、デンマークに滞在している。昨年、ヴィベケ・リーセと共著した犬のボディランゲージの2弾目の本を制作しているところだ。そこで、ヴィベケの愛犬、スイス・ホワイト・シェパードのオス犬、アスランの最近の快挙について少し知ることとなった。彼はデンマークで最初の「犬介在読解能力プログラム」にて訓練を受け、活躍する犬であったのだ。英語ではREAD DOGとも呼ばれる。本を読むのを苦手とする子どものために、犬を介在させて、読解能力の向上を図る、というものだ。1999年にアメリカで生まれたアイデアだが、今、徐々にヨーロッパにおいても、犬を介在させた子どもの学習向上効果が知られるようになった。デンマークの隣国、スウェーデンでも、すでに5年前から犬介在読解学習とその効果についての学術的な研究が行われている。
本を読んでいる間、犬がいることがどんなに子どもへ「安心感」と「ハーモニック」な精神状態を促すか、実際に経験してみろ、とヴィベケはアスランをソファに連れてきてくれたのだ。そして子どもたちが感じるであろう、素敵な幸福感を成人の(というか中年の)私ですら得られたというのは、前述したとおりだ。これならゆったりとした気持ちで、本に集中できるではないか!気がせっついていたり、ストレスで緊張していたり、あせっていると、学習能力は確かに落ちる。
▲アスランの読解力介添犬としての快挙は、テレビのニュースやデンマークの家庭週刊誌Hjemmet(写真上)にても、伝えられた。
「ほら、これ見てごらん!」と子どもが指をさすと、アスランはその方向に鼻面をむけて、さも興味深そうにその絵を見る、というのは、ヴィベケがしっかり訓練をした成果!その他にも、子どもが急に本を読むのをやめてしまい注意が散漫になると、前脚で本をめくり本読みを促す技も、アスランは心得ている。
この職務を行うためには、やはり犬に才能がなくてはならない。
「一番大事な才能は、子どもが大好きであること。そして落ち着いた態度が取れること。犬の落ち着きは、そのまま子どもに伝わってゆきます。」
さらに、ハンドラー(飼い主)と強いコンタクトを持ちながら、自立して働ける素質も必要だ。
「ダッフィーという犬があともう少しで読解学習介在犬になるところだったのですが、彼女をプログラムから外したのは、確かにハンドラーと強い絆を持っているのですが、ハンドラーが遠くにいると、そちらの方ばかり向いて子どもに集中できない。アスランのいいところは、私と強いコンタクトを持ちながら、すぐに子どもと絆を築いてくれて、子どもに集中してくれる点です」
ヴィベケの指導と訓練のもとに、すでに数頭の犬たちがもう少しのところで読解学習介在犬に認定されるとのこと。犬からのポジティブ・パワーは、徐々にデンマーク中の小学校に広がってゆきそうだ。
※本記事はブログメディア「dog actually」に2012年5月23日に初出したものを、一部修正して公開しています。