海の向こうからいぬ語り⑧ やればできる、言い訳はやめよう!

by 藤田りか子 2019.01.22

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日本と異なり、外国では犬となんでも好き勝手なことができると思われているようだ。テレビや雑誌のインタビューで「欧米では、散歩に行く時にリードをつけなくてもいいのですよね」なんてよく聞かれるものである。そういう国もあるかもしれないけれど、案外、外国だって日本と同じように飼い主が肩身の狭い思いをしなければならないときもある。犬が世間で受け入れられるよう、飼い主もマナーを厳守しようとしているためだ。


私が住むスウェーデンがそういう国のひとつだ。公共の交通機関はOKだが、フランスみたいにレストランに犬を連れて入るなど、もってのほか。ただし、犬が汚いとかしつけがされていないからという理由ではなく、動物アレルギーのお客さんを考慮して。オフリードで都市の路上を歩く犬を見かけることも、まずない。


だから、「日本では犬を自由にさせてやれない。外国ならできるのに。日本人は犬への理解が悪い」なんて超悲観的になる必要もないと思うのだ。




とはいえ、確かに他の国に比べると、日本は犬の飼い主にとって不利、不便が多いのは否めない。


たとえば私が「通常の散歩のみならず、犬のメンタル面も刺激してあげられるスポーツやアクティビティを取りいれましょう」「その犬種が持つ特有の狩猟能力を活かした、嗅覚遊び、回収遊びなどをさせよう!」などと記事に書くとしよう。


すると、あとから読者、あるいは編集部の方にまで「でもね藤田さん、日本はスウェーデンと違って、そうそう簡単に犬と遊べない環境というか事情がありまして...」と言われ、日本だからという理由で、犬をこうしてあげられない、ああしてあげられない、という嘆きの意見を聞く羽目になる。それどころか、「ここは日本で、外国じゃないから」という理由のみで、犬とのアクティビティをすっかり諦めきっている人もいる。


むむ。これはオフリードの問題と違って、言い訳にすぎないのではないか…という考えが頭をよぎった。別に競技会に出るレベルまで犬をトレーニングすべきとはいっていない。あくまでも、健全な精神を維持させるためのメンタルトレーニングの一部として、犬をアクティブにしようと主張しているだけだ。




というわけで、私の意見は、「本人のやる気しだい! あきらめないで、日本でも十分できる!」。


たとえば、私の好きなレトリーバーのような回収好きな犬を飼っている場合を例にとろう。レトリーバースポーツに従事している人は、ダミーを野原や水場に投げて、いかにもいつも犬を大自然の中で自由にして回収技の訓練をしている、と思われているようだ。が、それこそ犬に完全なコントロールが効いているからできるのである。


しかし考えてもみて欲しい。一体だれが最初から、野原で犬がダミーをきちんと持ってくるように訓練できるだろう?


最初は、まず物品に興味をもつように、引っ張りっこ遊びをしたり、手元から1mぐらい先に投げて取らせるといった、子犬、若犬時代における室内での訓練から始まる。取ったら勝手なところに行かせないよう、いきなり外には出ず、むしろ狭い部屋で練習を始めるのは、優秀なトレーナーの知恵ですらある。


取らせるだけではなく、ちゃんとハンドラーの手元に持ってくる、という技も、まずは周りに邪魔のない、家の中でのトレーニングによって学習させる。家の中だから成功する確率が高く、失敗しにくい。すると飼い主が犬に望んでいる正しいイメージが、犬の頭によりインプットされやすくなる。


失敗ばかりしていたら、犬は何をもって飼い主からいい顔をしてもらえるのか理解ができず、ただ混乱し、なかなか学習が進まない。これら室内の基礎ができあがってはじめて、野原のような、気を散らしやすい環境でも訓練が進み、結果的にパーフェクトに振るまえるのだ。




前回の記事で示した、犬が手のひらをターゲットにダミーをくわえてやってくるという技は、台所やリビングルームで簡単にできる。まずは手をターゲットに、鼻をくっつけてもらう技を入れるところから始まるのだ。それを覚えれば、テレビを見ながらだってできる。


レトリーバーや牧羊犬の世界で、かの有名な「遠隔操作」(離れた場所からトレーナーの指示通りに犬を行動させること)のトレーニングですら、最初は気が散らず、犬が慣れている室内で始まる。手の示す方向に犬が動く、ということを学問的に証明した「指差し実験」は、それこそ大学の狭い研究室で行われたぐらいだ。広い野原で実験をしたわけではない。


レトリーバーの世界における遠隔操作の基礎は、まずダミーあるいはトリーツの入ったボールを犬の両脇において、右あるいは左と指差しをする。それに従ってもらうことで、徐々に指差しの意図を学習してもらう。




ここで何がいいたいのか?


どんなに高度な技ですら、まずは家庭内での簡単な訓練(犬にとっては遊びの一部)から基礎が始まる。すなわち、外で愛犬を自由にアクティブにしてあげられる機会や環境に恵まれていなくとも、競技会系の人が基礎入れとして行っている訓練ぐらいは、誰にでも室内で試せるということ。ならばこのパーツを、普段のメンタル・アクティビティのひとつとして使わない手はないと思うのだ。


前述したように、何も競技会系の人の基礎訓練を真似しているからって、最終的に競技会に出る必要などまったくない。犬にとっては、いずれもうれしいメンタル面での刺激となる。




ただ、レトリーバーや牧羊犬にとってのアクティビティは、家の中でできるよう、いくらでも代替案が浮かぶ。しかし正直なところ、視覚ハウンド(※1)のスポーツに関しては、私もちょっと自信がない。


ルアーコーシング(※2)は、アメリカ、ヨーロッパで視覚ハウンドファンの間ではとても人気があるが、広いスペースが必要だ....。 となると、やっぱり外国の方が日本より環境がいいのか?!


※1視覚ハウンド
優れた視力と走力で獲物を捕獲する犬の種類


※2ルアーコーシング
ウサギなど小動物に見立てた疑似餌を犬に追わせて、狩猟のスタイル、走りぶりを競い合うゲーム


※本記事はブログメディア「dog actually」に2013年6月12日に初出したものを、一部修正して公開しています


【この連載について】

世界中どこでも、人がいるところには犬がいます。両者の関係も、国が違えば千差万別、十人十色! スウェーデン在住のドッグライター・藤田りか子さんが、海の向こうからワールドワイドな犬情報を提供してくれるこの連載。あなたの常識を吹き飛ばす、犬との新しい付き合い方が見つかるかも?


【藤田りか子 プロフィール】

スウェーデン在住。レトリーバー2匹と暮らす。トレーニングは趣味、競技会はパッション。著書に「最新世界の犬種大図鑑(誠文堂新光社)」。犬雑誌「TERRA CANINA」編集者、Web「犬曰く」で活躍。

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