by 藤田りか子 2019.08.20
子どもと犬のこのハートウォーミングな、無邪気なかかわり合い。この写真を見て、みなさん自身は何を感じられるだろうか。しばらくじっと写真を見つめ考えられたい。
と...... 実はこれらが、決して心をホンワカさせてくれる写真ではない、ということは、犬を知っている方なら、すぐに理解されるだろう。以下の写真は、スウェーデン・ワーキングドッグクラブで2012年3月に発信されたキャンペーンポスターである。スウェーデン語で書いてある見出しは
「この写真は決して微笑ましい光景を示しているのではなく.... まさに危ない状況です!」
Facebookでこのポスターが出回り、多くの人は
「子どもが犬とこういうことをしていると、いつもハラハラする」
「これは、ちっとも微笑ましい状況なんかではないです」
「よく、こんなことを子どもにさせる!」
と意見を発した。ちなみにこのポスターに書いてあるのは
「犬は生き物。私たちと同じ、『もうここまで!』という限界というものがあります。今までは寛容に見過ごしてきただけで、いつかは、堪忍袋の尾が切れて、『もうやめて!』と怒るときもあるでしょう。
犬は『いやだなぁ』と思うことでも耐えている、ということを、お子さんたちに教えてあげてください。そしてお子さんたちには、動物に対して敬意を払うのは大事であるということ、動物にも感情があるということを教えてあげる必要があります。
これらは、教えてもらわなければ子どもにとってはわからないことです。『子どもだから、犬をこんな風に扱うのはしょうがない、だからそれを犬も理解すべきだろう』だなんて決して思わないこと!....(以下省略)」
事故を避けるために大事なこと!
子どもに犬の気持ちを尊重することを教えること。
犬に人間のボディランゲージを教えること。
決して犬と小さな子どもを二人きりにさせないこと。たとえ、どんなに仲良くしていても、状況が一転する可能性は多いにあり。
..... 子どもと犬は素敵なコンビネーション。両サイドがお互いを尊重している限りは!
時々、Facebookなどで出回る「微笑ましい」子どもと犬の写真の中には、確かに、ハラハラさせるものがたくさんある。写真を出す本人は、「子どもと犬」というディズニー映画のようなシーンが実際にある、ということを伝えたかったのだと思う。そして犬は、時に優しく振る舞うものだ。のみならず、犬は子どもという可憐さも理解して手加減をする。
しかし、事故が起こるのは、それは人間のように「悪い」魂を持って行動しているのではなく、犬としてはさんざん「もう止めてくれる?」というシグナルを出していたにもかかわらず、子どもがそのシグナルを理解せず(当然!)、とうとう堪忍袋の尾が切れた時だから。それだけのことである。しかし、実際に起きたら一大事なことでもある。
私たちは、どうしても、犬を天使のように見ようとするし、その反対を行うものなら、犬を悪魔としてみなさなければならず、今度は犬を憎まなければならない。そうじゃないのだ。犬は天使でもなく、悪魔でもない。そんな人間よりな見方を押し付けるのではなく、犬を犬として理解してあげるのが、犬とのつき合い方を知る第一歩だろう。ちなみに犬を犬として見なす、ということは見下すことではない。例えていえば、人間でもこの人はアメリカ人、この人はフランス人、というように、たんに違う人種、違う文化の持ち主として尊重することと同じである。
あるトレーナーが話してくれたのだが、彼のクライエントの犬が赤ちゃんに咬みついたという。赤ちゃんは、クライエントの子どもで、別の部屋に犬といっしょにいた時に事故が起こった。突然鳴き声がして、急いで部屋にはいったら、その犬は赤ちゃんの頭をくわえていたという。クライエントは、果たしてこの犬を安楽死させるかどうか相談を持ちかけてきた。
彼の答えは「犬は肉食動物。ハイハイして頼りなく動くものを見れば、彼の狩猟本能にスイッチが入ることもある。でも、僕なら、決して乳飲み子と犬を監視抜きの単独で同じ部屋に放置することはないでしょう。もっともこの犬は、問題犬でもなんでもなく、普通の犬ですよ。監視がない場合、赤ちゃんと犬をいっしょにしない、ということを守れば、何も安楽死をさせることはないと思います」
彼はさらに、「どんなに犬が通常優しく振る舞っていても、犬という動物である限り、そのクライエントの犬のような行動を取る可能性はいくらでもある」と付けたした。それにしてもどうして私たちは、相変わらず「子どもと犬」というメルヘンチックな画像にこだわろうとするのだろう!
※本記事はブログメディア「dog actually」に2014年4月23日に初出したものを、一部修正して公開しています