犬の不思議を科学する⑥ 見過ごされがちな問題、アニマル・ホーディング

by 尾形聡子 2018.06.05

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自らの飼育能力の限界を超えて犬や猫などの動物を多数飼育してしまう、病的な収集癖をもつ人のことを『アニマル・ホーダー』といい、その行為は『アニマル・ホーディング』と呼ばれています。


動物ではありませんが、身近な例ではゴミ屋敷と呼ばれる状態が同じような原因により引き起こされていると考えられています。ゴミ屋敷については、衛生面や安全面から社会問題として取り上げられ一般に知られるようになりましたが、それが動物の場合のアニマル・ホーディングについてはどうでしょうか。


スペイン初の調査で明らかとなった、アニマル・ホーダーの実態

アニマル・ホーディングは世界的に広く見られるものの、北米以外では科学的観点からの研究はほとんど行われていないのが実情のようです。そのような状況の中、スペインでアニマル・ホーディングに関する調査が行われ、初の報告が『Animal Welfare』に発表されました。


研究調査は、2002年から2011年までの期間にスペインの動物愛護協会「Asociación Nacional de Amigos de los Animales (ANAA)」に報告された24症例、合計1,218頭の犬と猫、27人のアニマル・ホーダーを対象に行われました。その多くはマドリッドでの飼育例だったそうですが、その他の地域においてはANAA に報告されなかったか、もしくは気づかれることがなかった可能性もあるとしています。


【関連リンク】
Asociación Nacional de Amigos de los Animales (ANAA)


アニマル・ホーダーの飼育する平均頭数は50頭、犬または猫いずれか一方だけを飼育する傾向にあり、犬だけのケースのほうが多く見られました。動物を増やすにあたっては、不妊去勢手術をしないために偶然的に繁殖して増えてしまう場合、または、恣意的に繁殖したり、野良犬や野良猫を持ちかえるために探しに出たりする場合のいずれもありました。


以前の研究ではホーダーの多くは女性との報告があったそうですが、今回の調査での男女比は半々でした。年齢でみると、65歳以上の高齢者が63%、残りの3分の1が中年層でした。生活スタイルでは、24ケース中21ケースではひとり暮らしをしており、社会的に孤立した状態の人でした。さらに、全員が経済的に困難な生活を送っているといっていたそうです。


多くはすでに5年以上のホーディング歴を持ち、その中の3つのケースでは初期のホーディングに介入がはいったものの、その後こっそりと再びホーディングを始めたものでした。このように、ホーディングは常習的であり、解決することが難しい問題とされており、実際、アニマル・ホーダーの44%が物品のホーダーの徴候も示していたそうです。


今回明らかになったのは、一度介入して動物が保護されたときに、同時にホーディングの根底にあるとされる精神医学的な部分での問題を解決するための手助けが行われていなかったことだと著者らはいっています。


ホーディングされた動物の身体的・精神的影響は深刻

一般の人々がホーディングに不満を抱く理由としては、「治療が必要とされている動物に治療が行われていない」「動物が栄養失調または虐待されている」「あまりにも多すぎる動物の数」の3点が挙げられることが多いそうです。


最初のふたつに関係する動物の健康管理においては、ほとんどの動物がひどい健康状態で、適切な食餌や水を与えられておらず、75%のケースで怪我、寄生虫、感染症などにかかっている状態でした。さらにホーディングされた動物には精神面への影響もみられ、攻撃性と社会的恐怖を示す行動が広くみられました。


ホーダーの人々は、ホーディング自体に問題があることに気づいていないのが典型的な状態です。今回の調査においても例外ではなく、ホーディングしている生活に問題があると認めたのは24ケースのうちの3ケースだけ、さらには、動物の福祉が守られていないと認めたのはひとりだけだったそうです。


当然のことながら、数多くの動物と暮らすには、動物たちの日々の世話や健康のケアなどに莫大な手間暇やお金がかかります。適切な飼育がなされていないと、動物のみならず人の健康にも影響を及ぼす可能性もあるでしょう。そしてそれは、周囲の住人へも及ぶかもしれません。


また、ホーディングされている動物は、健康面にも精神面にも問題を抱えていることが多いため、救出されたとしても簡単に新しい家庭が見つかるような状態ではないそうです。


ホーディングの根本的な問題解決とホーディングそのものを防止する策がたてられるように、より多くの調査が行われていくこと、そして、社会問題としてさらに認識される必要があると感じています。


※本記事はブログメディア「dog actually」に2014年5月1日に初出したものを、一部修正して公開しています


【参考文献】
Characteristics of 24 cases of animal hoarding in Spain Animal Welfare, 23 (2), 199-208. 2014


【参考リンク】
Companion Animal Psychology


【この連載について】

いつも私たちの身近にいてくれる犬たち。でも、身体のしくみや習性、心のことなどなど、意外と知らないことは多くあるものです。この連載から、“科学の目”を通して犬世界を一段深く見るための、さまざまな視点に気づくことができるでしょう。


【尾形聡子 プロフィール】

ドッグライター。生まれ育った東京の下町でスパニッシュ・ウォーター・ドッグのタロウとハナと暮らしている。ブログ『犬曰く』雑誌『テラカニーナ』にて執筆中。著書に『よくわかる犬の遺伝学』。

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