犬の不思議を科学する③ 筋肉量維持も健康長寿のカギ?サルコペニアと寿命の関係

by 尾形聡子 2018.04.10

寿命がくるときまで健康に過ごせたら…。


多くの人々がピンピンコロリを願う高齢化社会の中、愛犬にもそうあって欲しいと感じている人も決して少なくないでしょう。サクセスフル・エイジングを実現するためには、無理やり寿命を延ばそうとするのではなく、病気をせずに年齢を重ねていきながら、元気に天寿をまっとうできるかということが、ひとつのポイントとされています。


近年、エイジング、すなわち加齢のプロセスを解明していければアンチエイジングの理解へとつながり、加齢に関連して発症する病気の予防にもつながるとされ、さまざまな方面から研究が行われています。その流れから、人と同じ病気を多く発症し、生活環境をともにする犬に着目した加齢研究もされるようになってきています。


今回はその中のひとつ、2016年に発表されたラブラドール・レトリーバーを対象に10年間かけて寿命と体重と身体組成との関連性を追った研究を紹介したいと思います。


2004年、39頭(オス12、メス17)、平均年齢6.5歳の去勢済みのラブラドールを似たような住宅環境と食餌環境におき、5段階評価のボディコンディションスコア(アメリカ動物病院協会(AAHA)栄養評価 犬・猫に関するガイドライン参照)を2から4の間でキープするようにして研究はスタートしました。


それから10年後の2014年、寿命から3つのグループに分けたところ、①9歳~12.9歳が13頭(33%)、②13歳~15.5歳が15頭(39%)、③15.6歳以上が11頭(28%、そのうち5頭は健在)という結果になりました。③の15.6歳という年齢はラブラドールの予想平均寿命の12歳(約2,000頭の平均)よりも30%長いもので、人間での95歳と同等だと考えられるそうです。


【参考文献】
アメリカ動物病院協会(AAHA)栄養評価 犬・猫に関するガイドライン


調査の結果、どのグループでも9歳になるまでは同じように体重が増加しましたが、9歳~13歳になるとき、②と③の長寿グループの犬は体重が減少しました。さらに②と③の長寿グループは①のグループと比べると、13歳になるまでに同じ量の除脂肪量(※)が減少する間の脂肪の増加スピードが遅く、除脂肪量の減少の仕方もゆっくりでした。


とりわけ③の15.6歳以上のグループは、脂肪の増加率も除脂肪量の減少率ももっとも低い状態だったそうです。また、総骨塩密度は①に比べてかなり高い状態にあることもわかりました。


※除脂肪量:脂肪を除いた筋肉、骨、内臓の重さ


筋肉量を維持することは健康維持にもつながる

これまでの研究から、人も犬も特別に長生きするケースでは、罹病期間の短縮(morbidity compression)が見られることが分かっています。がんに代表されるような加齢に伴い発症しやすくなる病気の早期発症を抑え、寿命を迎える最後の数年に短縮して発症するようなメカニズムが体内にあると考えられているのです。


今回のラブラドールの研究では、「体重」「除脂肪量」「寿命」との関連性に焦点があてられていました。人も犬も、脂肪が過剰に蓄積する肥満はさまざまな病気を引き起こすことが分かっていますが、脂肪を除いた筋肉や骨などの重さが健康長寿と関連性があることが、犬で示されたのは初めてのことと思います。


除脂肪量のもっとも大きな要素となっているのは、筋肉量です。筋肉は日々合成と分解を繰り返していますが、加齢により合成能力が低下していくためバランスが保てなくなり、筋肉量がだんだん減少していきます。このように、病気ではない状態でありながらも筋肉量が減少し、筋力が低下していくことを「サルコペニア」といいます。


サルコペニアは人でいわれている「ロコモティブ・シンドローム(以下ロコモ)」への入り口のひとつとされているものです。ロコモは筋肉(サルコペニア)のほかにも、骨や関節といった運動器が衰え、日常生活に支障をきたす状態のことをいいます。骨粗しょう症や腰痛、膝関節炎などを発症し、症状が悪化すると、介護が必要になったり寝たきりになってしまいます。


筋肉(骨格筋)は単独で動いているわけではなく、関節や骨と密接に連携をとることで体を動かすことができます。そのため、そのうちのどれかひとつでも状態が悪くなると3つのバランスが崩れ、ほかの部分へも影響が及びやすくなるためにロコモという状態が生まれるのです。


高齢になっても健康に過ごしていくために注意すべき課題として、メタボリックシンドロームに続きロコモについてもマスコミなどで取り上げられるようになってきていますが、これは人だけでなく犬にも同じようにあてはまることです。とりわけ骨や関節と比べて筋肉は細胞の分解合成が早いため、ほかの病気が原因ではない場合は、いかにして筋肉量を維持していけるかということがカギになってきます。


「言うは易く行うは難し」なのですが、除脂肪量の減少を防いで体脂肪をなるべくつけないようにする、というのがベストな状態です。そして先ほどの研究結果が示すには、そのような状態をキープできればできるほど、健康に長生きできる可能性がでてくるということなのです。


加齢による身体能力の衰えは、寿命がある生き物にとって避けられないことです。しかし、老いを少しでも遅らせられるよう、サクセスフル・エイジングのための手段のひとつとして筋肉量をいかにして維持していくかということはとても重要だと思います。


そしてもちろんのこと、肥満は大敵です。日ごろの食餌や運動が、健やかな高齢期をすごすための基礎を作っていくとあらためて感じます。


※本記事はブログメディア「dog actually」に2016年6月14日に初出したものを、一部修正して公開しています


【参考文献】
Exceptional longevity and potential determinants of successful ageing in a cohort of 39 Labrador retrievers: results of a prospective longitudinal study. Acta Veterinaria Scandinavica. 2016, 58:29.


【この連載について】

いつも私たちの身近にいてくれる犬たち。でも、身体のしくみや習性、心のことなどなど、意外と知らないことは多くあるものです。この連載から、“科学の目”を通して犬世界を一段深く見るための、さまざまな視点に気づくことができるでしょう。


【尾形聡子 プロフィール】

ドッグライター。生まれ育った東京の下町でスパニッシュ・ウォーター・ドッグのタロウとハナと暮らしている。ブログ『犬曰く』雑誌『テラカニーナ』にて執筆中。著書に『よくわかる犬の遺伝学』。

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