by 尾形聡子 2018.03.13
いつも私たちの身近にいてくれる犬たち。でも、身体のしくみや習性、心のことなどなど、意外と知らないことは多くあるものです。この連載から、“科学の目”を通して犬世界を一段深く見るための、さまざまな視点に気づくことができるでしょう。
毎日寒い日が続き、散歩に出かけるのにもついつい腰が重くなりがちな季節です。私たち人間は冬の季節に薄着で外に出たりしようものなら、あっという間に外気に体温を奪われることになりますが、犬たちはどうでしょうか。
もちろん、犬種や被毛の量、そして年齢などによっても犬の寒さの感じ方はそれぞれだと思いますが、それでも、私たち人間より犬はおしなべて寒さに強い生き物といっていいでしょう。とはいえ最近では、防寒用のコートを着て散歩に出かけている犬の姿をよく見かけるようになりましたが、たいてい靴は履いていませんよね?
そのような姿を見て、みなさんは疑問に思ったことはありませんか。犬の足の裏(肉球)には身体のように毛が生えてないのに寒くないのかと。どうして雪や氷の上を何も履かずに歩くことができるのかなと。
凍らない秘密は、動脈と静脈の位置関係!!
そんな疑問について、ヤマザキ学園大学の二宮博義教授らの研究グループが犬の足が温度を保つメカニズムを解明し、2011年発行の獣医学専門誌の『Veterinary Dermatology』に発表しました。
二宮教授らは、4頭の成犬の足の内部構造を走査電子顕微鏡で観察したところ、肉球に血液を供給する動脈の周囲にはたくさんの小静脈(静脈網)が存在しているのを発見しました。動脈と静脈が非常に近くにあるということは、それらがネットワークを組んで肉球からの熱損失を防ぐ役割があることを意味するといいます。
肉球の小静脈内にある血液が、空気や地面との接触により冷やされても、心臓からから来た温かい血液が通っている動脈のそばにあるため、すぐにもとの温度になります。そして、熱を放出して冷えた血液は脚を通って、身体へと戻るまでに再び温めなおされるのです。
このようにして、足先の体温も身体の体温もある程度の範囲に保つことができるという仕組みになっているそうです。
この仕組みから犬の進化が見えてくる?
このような、一定の体温を保つ仕組みのことを「対向流熱交換システム」といい、このシステムはペンギンの足やくちばし、イルカのヒレにもあることが知られています。また、犬と同じく脂肪分を多く含んだ肉球を持っているイヌ科の動物、ホッキョクギツネにも同じシステムがあることが分かっています。
対向流熱交換システムは、寒冷地に生息する野生動物ならいざ知らず、これまでは、家畜化されて久しい動物である犬には必要とされていないと思われていました。しかし、犬も対向流熱交換システムを持つことが明らかになったことから、興味深い進化の背景が考えられるといいます。犬の家畜化が寒冷地で始まった可能性を示唆するものかもしれない、というのです。
肉球チェックは忘れずに
暑い時期には体温を放散するための重要な場所である肉球が、寒さに対してもこのようにして対応しているとは、あらためて肉球の持つ機能の幅広さに驚かされませんか?
とはいえ、寒さへの適応力には個体差がありますし、凍結防止のためにまかれる塩で肉球を痛めてしまうこともあるでしょう。すべての犬がどんな環境でも凍傷にならないとは限りませんので、冬場の散歩も夏場と同じく、愛犬の肉球のチェックはまめにしてあげましょうね。
※本記事はブログメディア「dog actually」に2012年1月20日に初出したものを、一部修正して公開しています
【参考リンク】
BBC News「Pet dogs keep their feet from freezing」