犬の不思議を科学する⑪鼻のよさは犬種によって違うもの?

by 尾形聡子 2019.09.04

人の10万倍もの嗅覚を持つともいわれている犬は、その鼻を使って災害救助犬、麻薬探知犬、がん探知犬など、人にはできないさまざまな仕事をしています。犬の嗅覚が優れている理由には、匂いを感じとるために使われる脳領域が広いこと、外側も内側も湿っている鼻を持つこと、そして、匂いをキャッチするための受容体が数多く存在していることなどが挙げられます。


私たち人間からしてみれば遠く及ばない嗅覚の世界に生きる犬たちですが、優れた嗅覚を持つ犬の間でも匂いをキャッチする受容体の数が犬種によって異なるため、その能力には差があるといわれています。たとえば、ビーグルやブラッドハウンドなど嗅覚を使って狩猟を行うセントハウンドは、とりわけ嗅覚がよく発達しており、実際に匂いをキャッチするための受容体の数がほかの犬種に比べて多いことが知られています。また、一般的にはマズルが長い犬のほうが鼻がいいと考えられています。


そこで嗅覚の犬種差を詳しく調べるため、ハンガリーのエトヴェシュ大学で犬の認知科学を研究しているグループが嗅覚テストを行い、その結果を『PLOS ONE』に発表しました。


研究者らは、①嗅覚能力で選択繁殖されてきた犬種14頭(バセットハウンド、ビーグル、ジャーマン・ポインター、ビズラなど)、②嗅覚能力では選択繁殖されてこなかった犬種15頭(チャイニーズ・クレステッド、ウィペット、ミニチュア・ピンシャー、シベリアン・ハスキーなど)、③短頭犬種12頭(キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル、ボストン・テリア、ボクサー、パグなど)、④人に育てられたオオカミ12頭の4つのグループにわけ、すべての犬に同じようにテストを行いました。テストは、以下の写真にあるように、4つの陶器を伏せた状態で一直線に並べ、その下に隠すようにしてプラスチックの容器を置きます。容器のうちひとつにだけ生肉を入れ、それを嗅ぎ分けることができるかどうかが観察されました。テストの難易度レベルはプラスチック容器に開けられた穴の数で5段階に分けわけられました。

(photo from『PLOS ONE』


各レベルにおいて、それぞれ4回ずつトライアルを行ったところ、①嗅覚能力を大切に繁殖されてきた犬種は②嗅覚能力では選択繁殖されてこなかった犬種と③短頭犬種に比べて正解率がよく、③短頭犬種はほかのどのグループよりも正解率が低い結果になりました。このことから、短頭犬種の頭と顔の形は嗅覚を働かせるためには良い影響を及ぼさないことが示唆されました。


また、最高難易度のレベル5では、①の嗅覚犬種と④オオカミだけが偶然に正解する確率を確実に超えた正解率を出しました。


さらに、トライアルを繰り返すことによって正解率が向上していくかどうか調べたところ、オオカミが正解率を上げていたのに対し、犬の正解率は変化しませんでした。このことから、犬の嗅覚テストを行う際にはテストを何度も行わなくても、一度で実力を評価することができるだろうとしています。つまり、嗅覚を使って作業をする犬を育成する際、嗅覚の良し悪しに関しては繰り返しテストを行わなくても一度である程度判断することが可能であるといえるということです。


それにしてもやはり、このようなテストを見て毎回思うのは、犬の日々感じている匂いは一体どのようなものなのだろう?ということです。犬のようには匂いを嗅ぐことができないだけに、犬の匂いの世界への興味は尽きることがありません。


【参考文献】

A Test of Canine Olfactory Capacity: Comparing Various Dog Breeds and Wolves in a Natural Detection Task. PLoS One. 2016; 11(5): e0154087.

【参考リンク】

・The Bark

【この連載について】

いつも私たちの身近にいてくれる犬たち。でも、身体のしくみや習性、心のことなどなど、意外と知らないことは多くあるものです。この連載から、“科学の目”を通して犬世界を一段深く見るための、さまざまな視点に気づくことができるでしょう。


【尾形聡子 プロフィール】

ドッグライター。生まれ育った東京の下町でスパニッシュ・ウォーター・ドッグのタロウとハナと暮らしている。ブログ『犬曰く』雑誌『テラカニーナ』にて執筆中。著書に『よくわかる犬の遺伝学』。

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