ゾウと象牙とわたし ~WWF 「ソウゾウすること。」~

by anicom you編集部 2018.11.21

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明日からアメリカ旅行に行くAさん。和物と猫が大好きな現地の友人サラさんに、Aさんは猫柄の絵ロウソク、「沙羅」と猫文字で掘った象牙の印鑑、ちりめんでできた美しい招き猫を手みやげに持っていくことにしました――。

さてみなさん、この中に、ワシントン条約で国際取引が禁止されているものが含まれていること、おわかりですか?


はい、答えは「象牙」です。


この象牙をめぐり、今アフリカのゾウたちが絶滅の危機にさらされ、彼らを守ろうとする動きが世界中で加速しています。


この記事では、今知っておきたい、ゾウと象牙のお話をしたいと思います。


取材協力:トラフィック・ジャパンオフィスWWFジャパン


アフリカゾウの生息数、わずか30年で3分の1に減少

今回、お話を聞かせてくださったのは、WWFジャパンの野生生物取引監視部門である「トラフィック」のプログラムオフィサー、西野亮子さん。


持続可能な資源利用やワシントン条約に基づく国内法の運用、取引のモニタリング調査を活用した政策提言を中心に活動されています。


西野さんによると、ここ数年、アフリカではゾウの密猟増加が問題になっているといいます。1年間に殺される頭数は2万頭以上。かつてはアフリカ全域に生息し、推定134万頭いたアフリカゾウも、2016年には42万頭にまで減ってしまいました。


密猟の目的は、前段の象牙です。1989年にワシントン条約で象牙の国際取引が禁止されたことにより、それまで横行していた乱獲も一時下火になりましたが、2006年以降、再び増加の一途をたどっています。


その背景には、中国の経済発展に伴い、ステイタスシンボルとして象牙製品の需要が高まったことと、輸送・通信技術の向上により、より組織的かつ大規模な密猟が可能となったことがあげられます。


象牙取引をめぐる世界の対応

これまで、象牙の国際取引は禁止されていましたが、複数の国では、すでに在庫として保有している象牙を国内で売り買いすることが、認められていました。


しかし、マーケットがあれば需要を喚起します。象牙を欲しがる人がいる限り、ゾウの密猟や違法取引は止まない――この「需要と供給」の関係を断ち切るため、象牙の国内取引を禁止する動きが、今、世界各国に広がっています。


アメリカは2016年、100年以上前のアンティーク品など一部の例外をのぞき、州間の象牙取引を原則禁止に。記憶に新しいところでは、2018年4月にイギリスが国内取引禁止の方針を発表しています。


アジア諸国でも、中国が2017年に国内の象牙製造・取引を禁止したほか、香港・台湾もその動きに追従するかたちで、台湾は2020年、香港は2021年までに全面禁止することを目標に、現在段階的に取引を制限しています。


日本と象牙の浅からぬ関係と、危うい未来

©TRAFFIC_日本での販売_市場調査より


さて一方で、日本はどうなのでしょう?


かつてアフリカゾウが乱獲されていた1970~80年代、世界一の象牙消費国は、実は日本でした。年間300トンの象牙が輸入され、高価な調度品や印鑑の素材、三味線のバチ、琴柱などの和楽器のパーツに重用されてきました。


当時輸入した象牙は、国内にまだ相当数在庫として残っているといいますが、正確な量は把握できていないのが現状です。


日本における象牙の国内取引を規制するのは、「種の保存法」(環境省)です。同法では、大きくは以下の3点で流通管理をしています。

  • 全形牙(丸々1本のままの状態の象牙※)の登録義務

  • 材料や製品の取り扱い業者の登録義務

  • 個々の製品の合法性を示す認証制度(任意)

※象牙1本の形状を保持し、カットしていない先端が残っているもの。彫刻を施したものも含まれます


日本は材料となりうる全形牙や、それらを取り扱う業者を管理することで、象牙の違法取引を抑止する、というスタンスを取っており、象牙取扱業界もこの法規制の周知徹底に懸命に取り組んでいます。


しかし、認証制度が任意であることからも、たとえば加工された象牙製品などは、それが合法に入手した材料で作られているかどうか、厳密に確かめる手段はありません。


私たち個人も、容易に“加害者”になりえる

©TRAFFIC_日本での販売_市場調査より

消費者側もまた、象牙の出どころまで配慮して入手しているとは言い難いでしょう。正直、筆者は恥ずかしながら、今回西野さんからお話をうかがうまで、お店で売られている象牙製品が合法なものかどうか、考えたことがありませんでした。


さらに、冒頭のたとえ話のように知らず知らずに象牙製品を国外に持ち出したり、外国人観光客が気軽に象牙製品を購入し自国に持ち帰る可能性も十分あります。


これらは国際法違反にあたりますが、国内取引が今のまま続く限り、こういった個人レベルの行為まで完全に取り締まることは、なかなか難しいでしょう。


大量の在庫を抱えたまま、無防備ともいえる状態で象牙製品の国内取引ができる日本。違法取引を増長させる元凶ともなりうるこの国の危うい状況と今後の動向を、欧米やアジア諸国は今、厳しい目で注視しています。


ゾウがいる未来に向けて、私たちにできることは?

長い歴史のなかで成熟した市場になっているだけに、象牙の国内取引禁止は産業保護の観点からも、容易なことではないでしょう。それでも、国内に目を向けてみると、企業の自主的な取り組みというかたちで、明るい兆しが見え始めています。


たとえば、ネットでの象牙売買が違法取引の温床になる可能性が問題視されていることを受け、楽天とメルカリが象牙製品の取引を禁止しました。また、輸送業界も、違法な商品の輸送段階での取り締まりに協力する方針を取っていると聞きます。


では、我々個人ができることは何でしょう?


「ゾウの密猟と象牙の違法取引の撲滅」…とても役に立てそうにないと、筆者は足がすくむ思いがします。


それでも、たとえば「国外に持ち出さない・持ち出させない」はいち個人であっても守るべきルールですし、材料が合法かどうか見分けることが困難だとしても、象牙製品を入手するときに、いつもより慎重になってみることは、いち消費者としてできるはず。


引き出しやタンスに眠っていたり、店先に並ぶ象牙製品を正しく扱うことが、遠く離れたゾウの命を大切にすることと同じだと信じて。少なくとも知らんぷりをしないことが何より大切なのではないかな、と思います。


WWFキャンペーン「ソウゾウすること。」

WWFジャパンとトラフィックは現在、密猟と象牙の違法取引からゾウを守るためのキャンペーン「ソウゾウすること。」を展開し、広く支援を呼びかけています。


集められた寄付は、日本の国内取引の是正や中国と連携した普及啓発活動、象牙取引に関わるモニタリング調査などの活動のために使用されます。


5,000円以上支援された方には、ゾウのイラストをあしらった、おしゃれなデザインのWWFオリジナル手ぬぐい「ELEPHANTENUGUI」がプレゼントされるそうですよ。

寄付は郵便局、もしくはクレジットカードで受付中で、キャンペーン期間は11月末まで。詳細は下記キャンペーンサイトでご確認ください。


もともとこの問題に関心のある方はもちろん、本記事で象牙について関心を持ってくださった方、このキャンペーンへの協力を、はじめの一歩にしませんか?


【関連リンク】
WWF「ソウゾウすること。」キャンペーンサイト


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