猫の寿命を考える

2018.02.21

人の寿命と同じく、ペットの寿命も年々延びていると言われている。昨年度の「家庭どうぶつ白書2016」において、「犬の寿命と健康寿命」について紹介した。今回は猫の寿命について考えてみたい。


【関連リンク】
家庭どうぶつ白書2016「犬の寿命と健康寿命」


「猫は長生き」は本当か

「猫は犬より長生き」という印象をお持ちの方も多いのではないだろうか。


2017年11月現在、ギネス世界記録に登録されている世界最長寿の犬は29歳と160日(1939年に死亡)であるのに対し、猫の最長寿記録はなんと38歳と3日(2005年に死亡)であり、その差は約10歳。アニコム損保の契約動物における調査(2017年9月実施)でも、最長寿の犬は20歳、猫は22歳となっている。


では平均寿命はどうかというと、2015年度にアニコム損保に加入した犬の平均寿命は13.7歳であったのに対し、猫は14.2歳であり、やはり猫のほうが長い傾向にあることがわかる。


性別による違い

猫の寿命を雌雄別に調べてみたところ、雄が13.7歳、雌が14.8歳であった(図1)。


図1 猫の平均寿命の性差


人でも男性より女性のほうが平均寿命が長いと言われており、日本人では男性が81.0歳、女性が87.1歳(平成28年度、厚生労働省)である。


女性のほうが長生きである理由は諸説あるが、エストロジェンの抗酸化・抗炎症作用が加齢ストレスを軽減している可能性や、寿命の長さに影響を与えるテロメアとエストロジェン濃度との関連性を示唆した報告がある。


動物の場合も、哺乳類では概して雌のほうが長生きであり、これは一般的な雌雄の役割からきている可能性がある。雄は繁殖のための闘争や狩りの遂行といった役割を持つことが多く、雌よりも外的リスクにさらされることが多い。


一方で雌は出産し子供を育てる役割を持つので、子供を産むに耐える体力が必要になる。こうした行動学的パターンの違いから、雌のほうが長生きとなっているのかもしれない。


猫の寿命の性差に関する過去の調査では、単なる性差よりも避妊・去勢の影響が強いとの報告がある。野生下に比べて外的ストレスがかからない飼育下では性差に関しての科学的な根拠はまだ明確ではなく、今後の研究調査によって明らかとなっていくと考えられる。


品種による違い

アニコムの契約頭数上位10品種の猫について、品種別の平均寿命を比較した(表1)。


表1 猫の品種別の平均寿命(契約頭数上位 10 品種)


混血猫・日本猫の寿命が長く、他の品種が短いという傾向がみられた。犬では大型犬と小型犬を比較した場合に、小型犬のほうが寿命が長い傾向にあることがわかっているが、猫では体格差はほとんどみられない。


品種特異的な疾患が影響している可能性もあり、今後精査していく必要があるだろう。


過去との比較

人の寿命からすれば短い猫の寿命だが、過去と比較すると年々長くなってきている。2009年からのアニコムのデータによると、年度ごとにばらつきはあるものの、徐々に寿命が延びている傾向にある(図2)。


また1981~82年の動物霊園のデータをもとにした調査(Hayashidani, 1995)によると、猫の0歳の平均余命はわずか4.2歳となっている。調査方法がまったく同じではないため単純比較することは難しいとしても、この数十年で飛躍的に寿命が延びていることは間違いない。


図2 猫の平均寿命の推移


なぜ猫の寿命は延びているのか

猫の寿命が延びた理由のひとつとして、飼育方法の変化があげられるだろう。アニコムの契約者向けの調査(どうぶつkokusei調査、2016)によると、9割近くの契約者が完全屋内飼育であると回答した(図3)。保険契約者を対象にしたデータである以上バイアスがかかっていることは十分考慮すべきだが、猫は外でのんびり散歩するという一昔前のイメージからすると、猫の飼育方法に対する変化がうかがえる。


図3 猫の主な飼育環境(屋内・屋外)


日本における猫の歴史をたどってみると、興味深い記述がある。平安時代の『枕草紙』や『源氏物語』では、猫は上流階級の人間が紐(リード)をつけて飼っていた。また『寛平御記』(889年)には、宇多天皇が父から譲られた黒猫を飼っていたという記述もある。猫は高貴な家柄で寵愛されていた動物だったのだ。


放し飼いが主流になった理由としては、1602年(慶長7年)の猫の飼い方に関する法令が関係しているようである。その記述によると、『一.洛中猫の綱を解き、放ち飼ひにすべき事』とある。つまりリードで猫を拘束する飼い方の禁止が言い渡されていたのだ。


この法令の背景はネズミ対策だと言われており、当時の猫は愛玩動物というよりも益獣としての側面が大きかったためと考えられる。これがきっかけで、近年まで長く猫は放し飼いでのびのび暮らすという生活を送り続けていたのかもしれない。


しかし、屋外では交通事故や、他の猫との接触による外傷・感染症のリスクが高い。屋外飼育がメインであった時代においては、猫本来の寿命をまっとうできていなかったのが、時代の移り変わりとともに、屋内飼育が推奨されるようになってきたことで、寿命が延びているのかもしれない。


寿命が延びることはいいことか

寿命が延びることは、猫と暮らせる期間が延びることであり、それ自体は本来喜ばしいことである。しかしながら寿命が延びた分、慢性腎不全や腫瘍といった加齢とともにリスクが高まる疾患の発症も増えると考えられる。動物が病気に罹ることは、飼い主にとって経済的に負担になるだけでなく、その苦しむ姿を見ることで精神的にも大きな負担になる。


動物とできるだけ長く、しかも健康に暮らしたいという思いはすべての飼い主に共通する願いである。一緒にいられる期間が延びた以上、1日でも長く健康に暮らせるよう、アニコムでは新たな生活習慣の提示や予防方法の開発に注力していきたいと考えている。


【データ算出方法】

2009年4月1日から2016年3月31日までにアニコム損保の契約を開始した猫を対象に、各年齢での契約数(=頭数)およびそれらのうち死亡解約での届け出があった猫の頭数を集計し、カレント生命表を作成した。0歳時点での平均余命を平均寿命とした。

【参考文献】

・Guinness World Records(Oldest dogOldest cat ever
・厚生労働省:平成28年簡易生命表の概況
・林谷秀樹(1995)「生命表とその応用」『獣医情報科学雑誌』No.34, 9-13.
・Steven N. A., Kathleen E. F. (2016) Sex Differences in Lifespan. Cell Metab Vol23, 6,122-1033.
・Inoue M., Hasegawa A., Hosoi Y., Sugiura K. (2015) A current life table and causes of death for insured dogs in Japan. Pre Vet Med, 210–218.
・Whiteman V.E., Goswami A., Salihu H.M. (2017) Telomere length and fetal programming: A review of recent scientific advances. Am J Reprod Immunol 77(5), doi:10.1111/aji.12661.
・上田穣(2003)「歴史家の見た御伽草子『猫のさうし』と禁制」『奈良県立大学研究季報』14(2・3), 9-18.

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