by 佐藤華奈子 2025.10.11

グレーのヒョウ柄にずんぐりした体。狩りの達人ながら愛らしい姿のユキヒョウは、いまだに謎が多い大型ネコ科の仲間です。そんなユキヒョウは、ほかのネコとどんなところが違うのでしょうか。その独自の魅力をご紹介します。
ユキヒョウってどんなどうぶつ?
ユキヒョウはネコ科ヒョウ属の仲間。体長100~120cm、体重30~45kgほどの大型のネコです。カラーはグレーの地に黒いドーナツ型の模様が並ぶヒョウ柄。お腹側は白く、耳の後ろにも白い模様が入ります。このカラーは生息地の雪が多い岩場でカモフラージュになっています。食物連鎖の頂点で「雪山の王者」と呼ばれ、堂々とした佇まいをしています。
基本的に単独行動で、130~230平方キロメートルという広い範囲を歩き回って狩りをします。数が少ない希少な野生動物で、行動範囲が広いこと、岩場で姿が目立たないこと、警戒心が高く人前に現れないことから、生息地でもなかなか遭遇することができません。ほとんど見られないので「山の幽霊」とも呼ばれるほどです。研究者も見つけることが難しく、生態もまだよくわかっていない謎に包まれたネコです。
ユキヒョウがいるところ
南アジアから中央アジアの高山に生息。「世界の屋根」と呼ばれるヒマラヤ山脈やパミール高原、チベット高原、「シルクロードの背骨」と呼ばれる天山山脈などに暮らしています。生息範囲はアフガニスタン、ブータン、中国、インド、ロシアなど12か国にまたがります。
ユキヒョウが食べるもの
肉食でアイベックスやブルーシープ、アルガリなど野生のヒツジやヤギの仲間を食べます。キジやガンなどの鳥やノウサギ、マーモット、ナキウサギといった小型のほ乳類を食べることも。また、半数以上のネコ科の仲間で見られるように植物も食べることがあります。ユキヒョウのフンからは特に頻繁に植物の痕跡が見つかっていますが、その理由は明らかになっていません。
ユキヒョウの寿命
野生下では15年ほど。飼育下では20年ほどといわれています。ネコ科としては平均的な寿命です。
ほかのネコとここが違う!ユキヒョウの雑学
雪山に暮らすユキヒョウと、ほかのネコとの違いを雑学としてお届けします。
最も標高が高いところに暮らすネコ

ユキヒョウが見られるのは標高500~5,800mの範囲。多くは標高3,000~4,500mの高山で暮らしています。これは野生のネコ科の中で最も高い場所に生息していることになります。
ユキヒョウの体には、高い標高に適応したさまざまな特徴が見られます。山の斜面を軽々と移動できるよう、体にはがっしりした筋肉がついています。また防寒のために全身に長くてやわらかい毛が密集。冬毛は背中側が5cm、お腹側では12cmにもなります。細胞レベルでは、赤血球がほかのネコよりも小さく、ずっと数が多くなっています。空気が薄い高山で吸収できる酸素の量を多くするためです。
しっぽの長さはネコ科で最長
しっぽの長さは80~100cmほどで、体長の9割ほどになります。この長いしっぽも特徴のひとつで、ネコ科の中で最長です。しっぽは山の岩場で跳ぶときに、体のバランスをとるために役立ちます。またフワフワの分厚い毛に覆われていて、防寒のために体に巻きつけて休むこともあります。
足が大きい
足もほかのネコと比べて大きめです。雪に足をとられないように、幅が広く大きな足にすることで接地面積を増やしています。足裏には肉球があり、肉球の間にも厚い毛が生えています。大きな足は岩場で踏み込むときにも役立ちます。
ジャンプの天才
山の斜面で狩りをするユキヒョウは、ジャンプ力も抜群。水平方向に15メートル跳ぶこともある、幅跳びの天才です。これはジャンプ力に優れたネコ科の中でもトップの距離。それどころか、ほ乳類の中でも1位、2位を争うほどです。
鼻の穴が大きい理由は?
ユキヒョウの鼻先はピンク色で、左右に鼻の穴が広がっています。ほかのネコ科とお顔を比べると、特に鼻の穴が大きいことがわかります。これは冷たい空気を直接体に入れないため。鼻の中の鼻腔も大きく、冷たい空気が鼻を通過するときに温められて体に入るようになっています。ここにも寒冷な環境への適応がありました。
咆哮ができない
ライオンやトラなど大型ネコ科の鳴き声といえば…「ガオー」という咆哮。縄張りの主張や威嚇のために咆える姿は迫力満点です。こうして咆哮することができるのは、ヒョウ属の仲間だけ。ヒョウ属にはライオン、ジャガー、ヒョウ、トラ、ユキヒョウの5種が属しています。ところがユキヒョウだけは咆哮をしません。喉の構造がほかのヒョウ属と異なり、咆え声を震わせる部分がないからです。
ユキヒョウは基本的に大人しく、あまり声を出すことがありません。鳴くときは「ニャー」とイエネコに近い声で鳴きます。ただし、繁殖期になるとお腹から絞り出すような大きな声で鳴いて相手を探します。
瞳孔は丸いまま小さくなる
ヒョウ属の仲間との違いを紹介しましたが、同じ部分もあります。それは瞳孔の形。瞳孔を絞るときは、イエネコのように縦に細長くなるのではなく、丸のまま小さくなります。
ユキヒョウは絶滅危惧種

ユキヒョウはIUCN(国際自然保護連合)のレッドリストでVU(危急種)に指定されている絶滅危惧種です。その数は推定わずか3,500~7,000頭といわれています。
数が減ってしまう原因として、気候変動の影響があります。ヒマラヤ山脈は北極と南極に次いで氷が多いため「第三の極」といわれています。気温の上昇で氷が解けることで生態系に影響を及ぼし、ユキヒョウの生息域が大幅に狭まってしまうことが懸念されています。また毛皮が高値で取引されることや血肉に薬効があると信じられていることから、密猟が後を絶ちません。獲物となる野生のヤギやヒツジも狩猟で数が減っていることや、家畜を襲うことがあるため駆除の対象となること、開発によって生息地が分断されることもユキヒョウの減少に拍車をかけています。
まとめ

ユキヒョウは生息地でも滅多に目にすることができない希少な野生動物。でも、国内のいくつかの動物園で会うことができます。独特の特徴がつまったネコの仲間に、ぜひ会いに行ってみてください。