【動物と遺伝病①】 そろそろ、犬の遺伝病について話しても良いだろうか

by 小川篤志(獣医師) 2019.02.08

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犬にも、遺伝病がある。犬だけではない、猫にも、馬にも、人にだって遺伝病はある。しかし、犬は「ある事情」から遺伝病が非常に多いという事実に、私たちはそろそろ向かい合わなくてはならないだろう。


人の歴史とともに進化してきた犬の歴史

犬の遺伝病を考えるとき、その歴史から振り返らなければならない。


犬は、既に古代エジプトや古代メソポタミアの時代に飼い犬として記述されている。さかのぼれば、私たちとの伴侶としての歴史は10万年を超え、人間と暮らし始めたもっとも古いどうぶつと言われている。


旧知の通り、犬はもともと、使役動物として人間と暮らし始めるようになった。時代が進むにつれ、次第に人間の目的に応じて多様化しはじめ、狩猟を得意とする足が速く鼻が利くもの、ヒツジなどの家畜の見張り(番犬)に適したもの、ソリをひくほどに協調性がありスタミナに優れたもの。それぞれの役割に特化しながら進化していった。


産業革命を迎えた18~19世紀頃には、使役動物としての役目に区切りがつき、人間の家庭に溶け込み、家族に愛される伴侶となっていった。


彼らの歴史は、すなわち人間の歴史でもあるといえよう。


そして、伴侶動物の時代へ

役割をもった犬たちは、その役割をよりよく果たせるように、人間によって選択育種、つまり「ブリーディング」が行われてきた。


そして、犬種という概念が生まれた。19世紀に初めてのドッグショーがロンドンとパリで行われると、その関心が急激に高まっていった。


前述のとおり、産業革命以降は、犬としての旧来型の役割は薄れていったが、「家庭犬」としての新たな役割を担うことで、身体能力や性質以上に、容姿や性格といった「暮らし」の上で大切な特徴も重要視されるようになった。


ヨーロッパの愛犬家からはじまったこの流れを背景に、犬種はさらに豊かになりながら、すぐに世界中へと広がった。いまやどの国でもバラエティ豊かな犬種を目にすることができ、ある種の文化として、世界で愛されている。


近交度の高さは、生物学的なもろさを生む

特定の犬種を守っていくには、代々同じ特徴を残し続けるための努力が必要である。そのために、選択的に交配を繰り返していくのだ。


唐突だが、交配時の遺伝的な関係性がどれだけ近いか―つまり近親交配の進み具合を表す指標を「近交度」と言う。犬は、この近交度が総じて高い(もちろん人間では、ほとんどゼロに近い)。


この近交度が高いほど、親の形質に似た子に育つため、犬種の保存という意味では利益をもたらすが、同時に、生物多様性の自然節理に反するため、生物学的なもろさも生む。限られた小集落などで生活を営む近親家系に、奇形等の異常が多いのもこうした事情が背景にある。


だから、犬には遺伝病が多い

遺伝においては、姿や形だけでなく、ときに“期待しないもの”まで受け継ぐことがある。それが「遺伝病」だ。


遺伝病は、「遺伝性疾患」ともいう。定義を探すといくらでも言い回しがあるのだが、要するに「両親から受け継いだ遺伝子が原因で起こる病気の総称」と言える。


冒頭で述べた「ある事情」は、ここにある。犬には犬種があり、その犬種を守りつづけてきた。その長い時間の中で、犬種ごとに徐々に遺伝病が偏ってきた。だから、犬には遺伝病が多いのだ。


遺伝病は、防ぐことができる

人間の伴侶という役割を担った犬たちは、犬種という文化の中でその役割に特化した形質を獲得してきた一方、近交度の高さから、本来受け継ぐべきではない「病気」という代償をはらっている。


人間と犬の歴史を考えると、それは「仕方がない」と考える向きもある一方、その責任は、私たち人間であることは明白ともいえよう。


犬種という文化そのものを否定するつもりは、まったくない。かくいう私も、ミニチュア・ダックスフンドと暮らしていた。ダックスを見かける度に、愛くるしい気持ちを覚える。そういう方は多いだろう。


しかし、ここからが重要だ。原因遺伝子が特定されている遺伝病のすべては、理論的には防ぐことができる。そう、防ぐことができるのだ。


遺伝病クリアとクリアの子は、クリア

遺伝病は、両親またはそのどちらかから受け継ぐ。ということは、両親のどちらも「遺伝病の原因遺伝子を持たない」犬であれば、原則論ではあるが、実は遺伝病は起きようがない。


ざっくりと説明すると、確実に遺伝病の遺伝子を持っていない場合を「クリア」という。半分だけ持っている場合を「キャリア」という。逆に、確実に遺伝病の遺伝子を持つ場合を「アフェクテッド」という。


両親の犬がアフェクテッド同士であれば、100%の確率で遺伝病を持った仔犬が生まれる。その逆も同じ。「クリア同士の親犬から生まれるのは、クリアの個体」、つまり遺伝病をもっていない仔犬が生まれる。


もし、交配時にクリアかどうかがわかっており、適切な両親を選択できるならば、遺伝病は防ぐことができるのだ。


容易ではないが、向き合う価値がある

もちろん、それは簡単なことではない。すべての親犬の検査を行い、アフェクテッドやキャリアの犬を交配させないようにするには、相当な労力と時間、そしてお金がかかる。


また、検査結果が、たとえアフェクテッドであっても、かけがえのない命である。どうやって引き取り、終生大切に暮らすことができるかということも考えねばならない。


さらに、クリア同士の交配を続ければ良いというわけでもない。それは別の部分がまた遺伝的に濃くなり、新たな遺伝病が発生するおそれもある。こうしたことを考慮しながらブリーディングを行うことは、容易ではない。


しかし、どうぶつを愛し、どうぶつに関わる仕事をする者たちは、そろそろ、この事実と向き合わねばならない。いつまでも、このままではならない。


アニコムでは、遺伝病と立ち向かうための宣言をリリースした。一歩一歩かもしれないが、重要な一歩であると考えている。


遺伝病のない世界を目指して、業界全体で取り組んでいく必要がある。立ち上がるときなのだ。


あとがき

遺伝病であるGM1ガングリオシドーシスを発症した柴犬の「さくらちゃん」についてつづるブログが話題を呼んでいる。さくらちゃんたちが教えてくれた命の大切さを、私たちは忘れてはならない。遺伝病は、一つずつ減らしていくことができると信じ、アクションを起こしていきたい。


【参考文献】
・『The Dog ENCYCLOPEDIA SMALL & TOY ――小型犬の百科事典』(ロイヤルカナン ジャポン発行)
・Frequency and distribution of 152 genetic disease variants in over 100,000 mixed breed and purebred dogs

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