犬へ恩返しをするために、遺伝子検査でできること。

2020.11.27

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私たちのそばに寄り添い、時に癒しを、時に活力を与えてくれる犬たち。彼らは悠久の昔から、私たちと共に生きてきた。長い歴史の中でさまざまな場面で私たちのパートナーとして活躍し、世界中で愛されながら、数多くの犬種が生み出されてきた。
そんな犬たちに対して、私たち人間は、果たして本当の意味で誠実に向き合えているだろうか。犬種を決めるもの、つまり遺伝子をキーワードに、いつの時も私たち人間を助けてくれる彼らに恩返しができることがないか、考えてみたい。

犬種は、遺伝子の特徴が現れた結果である

タイリクオオカミ

犬はオオカミを起源とするといわれている。原種であるタイリクオオカミから分岐しはじめたのはおよそ15~20万年前。さらに人間がその犬を家畜化したのが1万5千年前といわれている。
一方で、現代の犬種の大多数が確立されたのは、わずかこの数百年のことだ。その間に、数百ともいわれる各犬種のスタンダードが確立されてきた。これには「遺伝子」が重要な役割を果たしている。体の大きさ、骨格、耳の形、毛色や毛質、尻尾の長さ…こうした特徴は、いずれも遺伝子によって決まっている。
ただし、これは別に犬に限った話ではない。犬も人も、あるいは他の動物も植物も、生物としての特徴は皆遺伝子として持っている。

犬種を生み出すと同時に起きたこと

ケージに入った子犬

先程、この数百年で多くの犬種が確立されてきたと述べた。これは主にブリーダーの努力の賜物だ。世界中に何百という愛すべき犬種を生み出してきた先人たちに、そしてそれを現代に受け継ぐ人々に、尊敬と感謝の念しかない。
ただ一方で、歪みが生じてしまっていることも事実だ。それが、『遺伝病』である。犬種を確立させるためには、その特徴をより顕著に出すように交配(ブリーディング)する必要があった。いわゆる近親交配に近しいことを繰り返す必要があったのだ。だからこそ犬の場合、他の生物と比較しても非常に血が濃くなっている。実際に、人や他の生物よりも、犬には遺伝病が多い。犬種としての特徴を受け継ぐと同時に、病気の遺伝子も色濃く受け継がれてしまうことがあったのである。

犬の遺伝病は人が生み出した。ならば、人が無くせるはず

獣医師を見つめる子犬

こうした遺伝病は、犬種を確立させる中で生じてきた弊害と言わざるを得ないだろう。もちろん、我々人間側も、わざわざ病気を生み出そうとしてブリーディングを行ってきたわけでは決してない。それでも、犬種を生み出すと同時に、遺伝病という歪みを生じさせてしまったのは、まぎれもない事実である。
ただし、これはある意味救いでもある。犬種は、人が生み出したものだ。それぞれの生活や目的にあわせて、最適と考えられる犬種を、言葉を選ばずにいえば「創って」きた。犬種を人が創り出したものだとすれば、その過程で生み出した遺伝病も人がコントロールできるはずである。
そして、その方法のひとつが、「遺伝子検査」である。

遺伝子検査を行う意義

ラップトップで調査をする女性

昨今、人間でも遺伝子検査を実施するサービスが行われるようになってきた。主に自分自身の病気のなりやすさや体質を知ることで、生活習慣の改善や将来のリスクに備えようというものである。

これに対して、犬で遺伝子検査を行う意義は、2つあると考えられる。
1つは、前述の人間と同じような考え方だ。その犬種に生じやすい遺伝病のリスクの程度を知ることで、飼い主がその犬と暮らしていくうえでの備えにしてもらおうというものである。事前に病気の知識があれば、定期検診を行うとともに、万が一発症したとしても、早期に症状を発見することができるだろう。それは重症化の予防にもつながる。

そしてもう1つは、最適なブリーディングを行うためである。遺伝病は、父犬・母犬の両方またはどちらかからその遺伝子を受け継ぐことで、次世代に伝わっていく。あらかじめ父犬と母犬それぞれの遺伝病のリスクがわかっていれば、病気の子が生まれないような交配の組み合わせを選択することが可能なのである。

もう少し詳しく遺伝の仕組みを説明しよう。理科の授業で習った「メンデルの法則」を覚えておいでだろうか。通常の生物は、2個で1組の遺伝子を持っている。父と母から、それぞれ1個ずつを受け継ぐのだ。
遺伝病に関していうと、この2個の遺伝子のうち、2個とも遺伝病の遺伝子でない場合を「クリア」、1個だけ持っている場合を「キャリア」、そして2個とも遺伝病の遺伝子を持つ場合を「アフェクテッド」という。
父犬と母犬の両方がアフェクテッドならば、確実に子犬もアフェクテッドとなる。一方で、父犬と母犬の両方がクリアならば、クリアの子犬、つまり遺伝病を持たない子犬が生まれるのである。

メンデルの法則

ここで、とあるブリーダーにおける事例を紹介したい。
ある遺伝病に関しての遺伝子検査を行ったところ、約9割の犬がその素因(遺伝病になる要因となる遺伝子)を持っていることがわかった。そこで継続的な遺伝子検査と、その結果にもとづく適切なブリーディングを行ったところ、2年後には素因を持つ犬が約5割にまで減少した。これは、遺伝子検査を行うことで、確実に遺伝病の撲滅につなげることができるということの証明ではないだろうか。

DMの遺伝子検査の結果

犬へ恩返しするために

愛犬を愛でる様子

もちろん、「遺伝病を無くす」というのは簡単なことではない。当然お金もかかるし、時間もかかる。また、単純にクリア同士のブリーディングを行えばいいという話でもない。それによって、新たな遺伝病が生じるなど、別の歪みが生じてしまうおそれもある。慎重な判断と検証が求められるのだ。

それでもこの先、100年後も200年後も、私たち人間がこの「犬」という素晴らしい生き物とより豊かな関係を構築していくために、そして数百を超える世界中のさまざまな犬種を健全な形で継承していくためには、どこかで遺伝病と向き合わなくてはならない。それが今この時であるということも、また間違いないだろう。

愛すべきパートナーとして、ずっと私たち人間を支え続けてくれた犬たちに恩返しするために。犬を取り巻くすべての人々が取り組むべき課題なのである。

【参考文献】
『世界で一番美しい犬の図鑑』タムシン・ピッケラル 著/エクスナレッジ
『犬からみた人類史』大石高典・近藤祉秋・池田光穂 編/勉誠出版

【関連リンク】
【動物と遺伝病①】 そろそろ、犬の遺伝病について話しても良いだろうか

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コメント1

りくさん

先月、愛犬は虹の橋に旅立ってしまいました。犬との生活は終わっても、こうしてアニコムさんのラインを見てしまいます。愛犬はダックスで、色々病気をしましたが、目の病気は遺伝性と言われました。病気をするごとに、後悔ばかりでした。遺伝子のことを知っていれば、心構えが違ったかな…と思ったりもします。

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