コロナは「かなり賢いウイルス」 感染症専門医が、ペット飼育者に教えてくれたこと

by 小川篤志(獣医師) 2020.03.17

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■新型コロナウイルスに関するまとめ記事はこちら

林修先生も「今は感染症専門医の意見しか聞きたくない」とTVで発言しているように、感染症専門医の見解は私たちにとって、数少ない「信じられる意見」です。今回は、毎日のようにTVのニュースで登場している、感染症専門医の佐藤 昭裕 先生(KARADA内科クリニック 院長)に、獣医師がお話をうかがいました。

最後の「この予防策が、文化になればいい」の言葉は、深く心に沁みます。


※本記事は2020年3月16日時点の情報をもとに作成しています。

佐藤昭裕先生

【プロフィール】佐藤昭裕(さとうあきひろ) 氏(KARADA内科クリニック 院長)

東京医科大学卒業後、総合診療科・感染症科に勤務。2008年度東京医科大学病院ベストレジデントを受賞。感染制御部 副部長、感染症科医局長を経て、2019年品川区・五反田に、KARADA内科クリニックをオープン。主に、新型コロナウイルス感染症に関して、各種メディアでコメンテーター(専門家解説員)として活躍中。
認定資格:医学博士、日本感染症学会専門医、日本内科学会認定医等。
▶「KARADA内科クリニック」HPはこちら

「正しく備え、正しくビビる」 新型コロナウイルスは、なぜここまで騒がれるのか?

―今日はよろしくお願いします。さっそくですが佐藤先生は、医師として新型コロナウイルス感染症の疑いのある患者さんと接するのは怖くないのですか?

まったく怖くありません。それは、自分が専門家であり、どうしたら感染しないかをよく理解していますし、それを実践しているからです。


佐藤昭裕先生

▲診察室でインタビューに答えてくれた佐藤先生


―のちほど詳しく教えて下さい。まず、今の状況をうけ、感染症専門医としての社会的責任をどう感じていますか?

専門家ではない人から不正確な対策や予測が発せられていることは、問題だと思っています。感染症専門医の中でも見解が分かれることはありますし、医師全員が専門家というわけではありません。そこで我々のような専門医が重要なのですが、日本には感染症専門医の数が足りていない。実はとても少ないんです。だから、私もなるべくメディアに出て、重要なことだけ伝えるように心がけています。


先生のブログでの「正しく備え、正しくビビる」という一文が印象的でした。その中で、「現段階で、そこまで大騒ぎするほどではない」と書いていましたが、1ヶ月が経って見解に変化はありますか?

ちょっと言い過ぎたな、と思っています。今は、そこまで言えません。


というのも、80歳以上の方の死亡率は、15~18%というデータがあり、これは我々にとっても驚異的な数値です。


一方で、若者にとっては大騒ぎする必要はないかもしれません。重症化しにくく、死亡率も1%程度で留まっています。ただ、重症化しない分、感染を広げてしまう恐れがあるので、そこには十分に注意してほしいと思います。


―インフルエンザと比較する声も多くあります。

インフルエンザでここまで高齢者の死亡率は、高くありません。(今回は高齢者に限りですが)5~6人に1人が亡くなってしまうというのはショッキングな確率で、これは皆さんも良く知るような有名なウイルス病にも匹敵します。


ですが、インフルエンザとどちらが怖いかは一概に言えません。コロナウイルスは、子どもや若者には感染しにくく死亡率も低いですが、インフルエンザは逆に子どもが重症化することも一般的です。


―では、なぜコロナウイルスは、これほど騒がれるのでしょうか? 感染症学から見て、コロナウイルスを、どう思っていますか?

すごく頭のいいウイルスだな、と思います。


佐藤昭裕先生

▲ウイルス側の生存戦略は「多くに感染して、死なせないこと」


―頭のいいウイルス?

はい。ウイルスの目的って、なるべく多くの人に感染し、宿主を死なせないことですよね? 宿主である人間が死んだら、ウイルス自身もおしまいですから。それを、実にうまく使っています。


新型コロナウイルスは、発症しても普通の人が動けなくなるほどの症状はありません。会社や飲み会にも行けてしまう程度だから、感染が容易に拡がっていくんです。しかも、一度ウイルスが体に入ると、だらだらと人の身体の中に居続けられるというところも特徴ですよね。入院期間も長く、回復まで時間がかかります。これほど賢いウイルスだからこそ、我々も正しく立ち向かわないといけません。


とにかく手指衛生と換気が重要。うがいって効果ないの!?

―手指衛生の大切さを説いていますね。あらためて予防法について教えて下さい。

とにかく、手指衛生とマスク。特に手指衛生は、もっとも重要な予防法です。私も診察のたびにしています。「マスクは効果がない」という意見もありますが、少なくとも医療従事者のマスクの防御効果は証明されています。患者の咳やくしゃみをダイレクトに浴びますからね。そういう、感染者の飛沫(ひまつ:咳などで飛び散る体液のこと)からのガードには、効果があります。でも、広い公園や、人の少ない通りなどでマスクをする必要性はそこまで高くありません。あとは、感染者が他者に感染を拡げないという意味では、とても重要です。


―うがいはどうですか?

実は、うがいはそこまで効果がないということがわかっているんですよね。特に、消毒系うがい薬を使ったうがいは、逆効果だという論文もあります。良い菌まで殺してしまいますし、本来、消毒薬は乾いてこそ効果があるのですが、口腔内は乾くことがありませんから。


だから、うがいをするなら水の方が良いです。ただ、小さな子どもさんなどは、上手にうがいができず、むしろビシャっと、シンクや周りにウイルスを撒き散らしてしまうこともあるので、難しいところですね。


佐藤昭裕先生

▲診察前後にすぐ使えるよう、デスクには消毒液が備え付けられている


―驚きです。ほかに有効な手段はありますか?

あとは、やはり換気です。密閉空間での換気は最低でも1時間に1回、10~15分程換気してください。窓を対角線上に開けると、換気の効果が高いことも知られています。窓の開かない高層マンションでは換気扇でも構いません。ペットには手指衛生やマスクは難しいでしょうから、換気をしっかり心がけてください。


「とにかく睡眠」 睡眠時間が減るだけで、感染リスクは5倍に

―もし、かかったときの重症化を予防するために、いまできる対策はありますか?

とにかく「睡眠」です。しっかり寝て疲れをとることが大事です。睡眠時間が2~8%減少しただけで、風邪にかかるリスクが5倍もあがるという報告もあります。

佐藤昭裕先生

▲睡眠時間でリスクは5倍も変わる


―え、5倍も!?

はい。普通の風邪やインフルエンザのデータなので、今回のコロナウイルスではありませんが、おおよそ同じことが言えると思います。


―食事やストレスについてはどうでしょうか?

食事も大事です。しっかりバランスよく食べてください。


―それだけ…ですか?

はい(笑)。ちまたでは「納豆がいい」とか「海藻が良い」などの意見もありますが、具体的な食材で、感染症予防となるエビデンス(学術上の証拠)はありません。バランスよくとれば大丈夫ですし、むしろこだわって偏食する方が体調を崩しやすいです。


もちろん、ストレスも少なくしておきたいです。最近テレワークが進んでますよね。人のストレスって、ほぼ対人関係からくるものだと思うのですが、テレワークでかなり少なくなったのではないでしょうか(笑)。


佐藤昭裕先生

▲「医師は、なかなかテレワークはできないのですが」と話す佐藤先生


「正直、驚いた」香港での犬への感染について

―香港で、ペットの犬への感染がありましたが、このニュースをどう見ていますか?

正直驚きました。まったく想像していませんでしたから。通常起こりえない動きです。まだ詳しいことを言える段階にはありませんが、かなり稀なケースと言えます。


でも、犬に症状が出ていないのが救いですよね。もし、犬に症状が出たり、その犬から人に感染する、などということが起きたら、もう目も当てられないような状況になることは間違いないですから。


佐藤昭裕先生

▲「パニックになって、飼育放棄などをすべきではない」


―たとえば、すでにペットの犬にも感染が広がっていたり、人に感染させているといった可能性はありますか?

もしそういったことがあるとしたら、感染経路としてとっくに明らかになっているはずです。ペットを介した感染、としか説明ができないような事例が出てくるとかですね。でもいまはそれがありません。今回も、犬は弱陽性であり、症状もありません。断言はできませんが、ほとんど可能性はないと思います。


あと、今回の犬が感染したからといって、他の犬もかかるということも言えません。我々専門家は、この動向をしっかり洞察すべきですが、ペットの飼い主さんたちが今から慌てる必要はありません。


―ペット飼育者が、気を付けておきたいことはありますか?

基本的に、散歩は大丈夫だと思います。ドッグランに行くのをやめよう、という声を聞きますが、今の状況で犬から犬に感染することは考えなくてよいと思います。逆に、獣医師としての意見はどうですか?


【聞き手】小川篤志

▲犬同士の感染や、犬から人への感染は見つかっておらず、過剰反応する段階ではないという意見で一致


―心配なら、積極的な参加は控えましょう、くらいかと。それより人同士の感染のリスクを気にしますね。

そうですね。飼い主のコミュニティで集まって接触する、というのはやめたほうがいいかもしれません。


―自分や家族がかかってしまったら、家族やペットとどう接すればいいですか?

もちろん、感染者は違う部屋で隔離をするなどの対応が必要です。接触は避け、こまめに換気をして、タオルの共有などを行わないでください。手指衛生や、家の中の消毒を徹底してください。犬猫に対しては、香港の事例がある今は、できるだけ接触は避けた方がいいですよね。


「外出自粛で、ペットと一緒に過ごせる時間が増えたことはいいことかも」

―今回の騒動ですが「ペットを飼っていて良かったね」と思えることはありますか?

ペットを飼うことでストレス関連ホルモンが減るなどのポジティブな論文は多いですよね。論文うんぬんよりも、私自身の実体験として言えます(笑)。


さっきもストレス軽減が大事だと言いましたね。「ペットを飼育しているとコロナにかかりにくい」とは言えませんが、こういうときこそ大事な存在だと思います。


佐藤昭裕先生

▲「ダックスを飼っていました!」と、思わず笑顔がこぼれる


―本当にそう思います。

今、テレワークの導入でペットと過ごせる時間が増えていますよね。これってお互いにとっていいことかな、なんていうことも思っています。一人暮らしで誰にも会わずに生活している人も多いです。ペットも、その飼い主も、共に過ごせて幸せな気持ちになれているかもしれません。


コロナウイルスの流行が、私たちに教えてくれたこと

ー最後に、伝えておきたいことはありますか?

今年は、インフルエンザが少ないんです。12月の年末までは、感染者数も多かったのですが、年が明けてからすごく減り、収束に向かっています。これは、感染症学的には、おかしいことなんです。でも、今回はちゃんと理由がある。


ーもしかして、みんなが一丸となって予防を徹底しているからですか?

その通りです。きっかけはどうあれ、皆さんが手指衛生、感染予防を頑張ってやっているからです。私は、これが文化となればいいと思います。「流行は防げない」と言われていたインフルエンザも「頑張れば防げるんだ」という強いメッセージに変わりました。今回のコロナの収束は見えていませんが、これが世界中の教訓になったのではないでしょうか。


ーありがとうございました。


※本記事は、2020年3月16日時点のものです。最新情報とは異なる可能性があることをご了承ください。


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小川篤志

【聞き手】小川篤志(おがわあつし)・獣医師

日本獣医生命科学大学を卒業。2008年獣医師免許を取得。救急医療を専門に経験を積み、救急病院長などを歴任。肺水腫、熱中症、交通事故、胃拡張胃捻転症候群、重積発作、中毒、急性腎不全などの救急疾患治療を多く経験。災害地での獣医療にも従事。2013年アニコムホールディングス株式会社に入社し、獣医師や飼い主向けのセミナー講演、メディア取材などの実績多数。東京都獣医師会広報委員も務め、取材記事やコラムなども手掛ける。


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コメント2

末田さとみさん

今回のコロナウィルスで犬に感染したと香港の事例を聞き大変心配していました。私も基礎疾患がありますので気をつけていますが先生のお話を聞いて予防をしっかりしていく事がとても大事だということを改めて実感しました。大切な家族のペット達を守っていきます。お話ありがとうございました。

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佐藤まゆみさん

色々詳しい事を専門医だからこそわかる事も教えて頂いてありがとうございます。何も知らない犬達を守ってやるのも飼い主の責任だと常日頃から思っております。間違った情報に左右される事なくこれからもこの子達を守っていきたいと思います。

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