by 兵藤 未來(獣医師) 2018.06.21
どうぶつを飼っている人なら、誰もが一度は『しゃべりたい』と考えたことがあるのではないでしょうか。私もその一人。何度考えてみても、私のwithlistには、この項目が外せません。
2年前、あるところで数頭の子犬の兄弟が生まれました。チワワとパピヨンのミックスで、コロコロとした可愛い子ばかり。獣医師として彼らの診察をしていた私は、みんなすぐに飼い主さんがみつかるだろうと思いました。でも、その中の一頭は、生まれつき心臓病をもっていたのです。
手術をしない限りは大きくなれない、そしてその手術も難しいくらい、重たい心臓病でした。その子が神様からもらった命は、他の子よりも短かったのです。
当然なかなか里親も見つかりません。私は、その子を引き取らせてもらうことにしました。
名前は『きょうすけ』とつけました。きょうすけのきょうは、今日も一日強く生きろよ、のきょう。たとえ心臓病だろうと、神様がくれた命が短かろうと、強く生きてほしいと願いをこめて。
そして、彼の可能性に賭けてみることにしたのです。
知り合いの循環器専門医がいる動物病院に連れて行き、手術をしてほしいと頼みこみました。ただでさえ困難な手術を、まだ800g程度しかなくて、肺水腫も起こしている犬に行うのです。成功する確率は低いと言われました。
それでもお願いします、と言って手術に立ち会わせてもらいました。ぼろぼろの肺の一部が切り取られ、血圧がどんどん下がり、脆い血管から血があふれ出ました。その度に私は、同僚からもらったお守りを、ぎゅっと握りしめました。
きょうすけは、奇跡的に生き延びました。
そんなドラマみたいな生い立ちを微塵も感じさせないほど、今では普通の犬に成長しました。いえ、普通よりよっぽど強いやんちゃな犬になりました。
家に帰ると大喜びで迎えてくれて、仕事でヘトヘトな私をよそに「さあ遊ぼう!」とおもちゃをいっぱい持ってきます。お出かけはいつもテンションMAX。いろんな人に笑顔で愛想をふりまいて、可愛がられています。
いたずらばかりするし、オイデもいまだにできないけれど、きょうすけがいてくれて幸せだなあと、私は毎日思います。
でも、きょうすけはどうでしょう。普段はお留守番ばかりで、さぞかし退屈で寂しいのではないかしら。あのとき引き取ってきたけれど、そのおかげできょうすけは命拾いしたのかもしれないけれど。
きょうすけは、私といて、幸せ?
もししゃべることができたなら、きっといつもの笑顔で「当然だよ!」と答えてくれるでしょう。そうしたら私は彼に、ありったけの愛情をこめて「ありがとう」と「大好き」を伝えたい。
リストの3つめに書いた『しゃべりたい』とは、そういうことなのです。