上野動物園のシャンシャンはなぜ中国へ帰るの?希少動物パンダの繁殖の秘密

by 編集部 2020.12.22

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2017年6月12日に誕生して、多くの人をハッピーな気持ちにしてくれた上野動物園のパンダ、シャンシャン。2020年末に中国へ返還される予定でしたが、2021年5月末まで延期となりました。嬉しいことに、シャンシャンに会える機会はまだまだあるのです!


さて、それでは、なぜシャンシャンは中国へ行ってしまうのでしょう?シャンシャンの返還を機に、パンダについて基本的なところをおさえておくべく、「パンダの基礎知識」をまとめました!

上野動物園のパンダが中国に返還されるのはなぜ?

ゆったりと歩くパンダ

まず最初に、なぜ返還されてしまうのかについて触れたいと思います。これまでも、日本から中国へ返還されたパンダがいるので、ご存じの方も多いと思いますが、改めてご説明しましょう。

上野動物園がパンダを返還するのは、「中国野生動物保護協会」とのお約束

パンダは森林伐採や密猟などの影響で、絶滅の危機におかれていて、IUCN(国際自然保護連合)が作成している「レッドリスト」 では、VU(危急種)となっています。ただ、少し喜ばしいことには、さまざまな保護活動が功を奏し、野生の個体数は増加しているのです。その数は、中国政府の調査結果によると、2003年に約1,600頭でしたが、2015年には約1,800頭となっています。これにより、それまでEN(絶滅危惧種)だったところを、2016年から現在のVU(危急種)に引き上げられたのです。


とはいえ、「絶滅のおそれのある野生生物」ということに変わりはありません。ワシントン条約では、商業目的での取引が禁止されています。そのため、日本にやってくるパンダは、「日中共同飼育繁殖研究」という研究目的で貸与されているのです。シャンシャンの場合は、貸与にあたって「中国野生動物保護協会」と 東京都が「ジャイアントパンダ保護研究実施の協力協定」という協定を結んでいます。この協定でパンダの所有権は中国にあると定められているので、協定で約束をした期間が過ぎたら、中国へ返さなければならないのです。


上野動物園のパンダは、シャンシャンだけでなく、両親のリーリー、シンシンも返還される

「え?シャンシャンは日本で生まれたのに所有権は中国にあるの?」と思われるかもしれませんが、両親のリーリー(雄)とシンシン(雌)が、前出の協定によって繁殖研究の目的で上野動物園にやってきているので、その間に生まれたシャンシャンの所有権も中国側にあるのです。


リーリーとシンシンが上野動物園にやってきたのは、2011年2月のことです。その際、「2011年2月21日~2021年2月20日」を貸与期間として、協定が結ばれました。なので、本来ならば、リーリーとシンシンは、来年2月20日までに返還される予定だったのですが、シャンシャンの返還日の延長とともに、両親の返還日も2026年2月20日までに延長されました。そのおかげで、シャンシャンが中国へ行ってしまった後も、上野動物園でパンダに会うことができるのです。


パンダってどんな動物?

竹を食べる親子パンダ

パンダが返還される理由をおわかりいただけたでしょうか。次に「パンダ」という動物についての基礎知識をご紹介しましょう。

クマ科で肉食動物なのに「竹」が主食のパンダ

正式名称は「ジャイアントパンダ」で、「食肉目クマ科」に属しています。クマ科ではありますが、他のクマ科と違い、冬眠をしません。主食はご存じのとおり「竹」です。もともとは肉食でしたが、進化の過程で竹を主食とするようになったのです。氷河期が到来したとき、竹以外に食べるものがなく、生き延びるために竹を食べるようになった、という説もありますが、古代、人口が増えるにつれて生息地を高緯度地域に追いやられたからという説も。新しい地でほかの肉食動物と争わなくてもよいように、竹を食べるようになったというのです。


いずれにせよ、現代に生きるパンダは竹を主食としています。しかし、実際は肉食性の強い雑食動物です。なので、草食動物に比べてパンダの腸は短く、繊維質の多い食べ物の消化効率がとても低いのです。1日に体重の40%にもおよぶ12~38kgの竹を食べるといわれていますが、摂取した量のおよそ17%しか吸収されません。ときどきタケノコも食べるとはいうものの、それで十分なのでしょうか。


この疑問については、これまで研究が重ねられています。


パンダは、前述のように腸の作りは肉食動物です。また、草を分解するために必要な酵素に関連する遺伝子を持っていないことがわかっています。そんななか、2011年、中国科学院動物研究所が研究結果を発表しました 。パンダの消化管内に、草食動物の腸内にあるものに似た細菌が存在することがわかったというのです。その細菌叢のなかの13種類はセルロースを分解する細菌の仲間で、7種はパンダ特有の細菌だったといいます。


とはいうものの、まだ確実なことはわかっていません。パンダの腸内細菌は、季節によって変化しているという研究結果も発表されています。それは、竹の成長に関連しているようで、春先の新芽が食べられる時季と冬とでは、細菌叢が異なることがわかったそうです。


竹を主食にしているパンダが、どのように十分な栄養を摂ることができているのか、それを解くカギを腸内細菌に求める研究は、まだまだ続いています。


また、パンダを見ていてわかるように、とにかく動きがゆったりしていますよね。激しい動きはしません。つまり、パンダは無駄なエネルギーは使わないのです。食べているとき以外は、たいてい気持ちよさそうに寝ています。ほっこりさせてくれる、あのゆったりした動きは、生きるための本能だったのです。


新しい命を育む「繁殖」と「子育て」

眠る赤ちゃんパンダ

赤ちゃんパンダの誕生は、多くの人を幸せな気持ちにしてくれます。そんな新しい命を育むために必要なのが「繁殖」です。実は、パンダの繁殖はとても難しいと言われています。


パンダはカップリングに繊細

なぜ難しいのでしょうか。パンダの発情期は1年に1回、3~5月の間で、この期間に雌が妊娠する可能性があるのは、わずか1~3日です。この短い期間に、雄と雌がすんなりと交尾をしてくれればよいのですが、一番の難関は「相性」なのです。パンダはカップリングにとても繊細で、雄が雌に嫌われたら、二度と交尾ができないと言われています。


とはいうものの、リーリーとシンシンは、2017年2月のお見合い時には、じゃれあいながらも、最後は殴り合いのケンカになっていたとか。にもかかわらず、シャンシャンが誕生したのですから、「ケンカするほど仲が良い」夫婦もいるのかもしれませんね。


小さい小さいパンダの赤ちゃん

赤ちゃんパンダは、体長約15~17cm、体重約100~150gで生まれてきます。大人のパンダと比べると、たった「1000分の1」の大きさです。カンガルーやコアラなどの有袋類の赤ちゃんも小さいですが、パンダも他の哺乳類に比べると、親との大きさの差がとてつもなく大きいと言えます。


そのため、生まれてすぐに母親が抱っこしないと、体温が下がって死んでしまうこともあるそうです。また、あまりに小さすぎて、母親が踏みつぶしてしまうこともあるとか。なので、動物園の飼育員の方たちは、雄と雌が交尾できる環境づくりはもちろん、出産してからも並々ならぬサポート体制で、パンダ親子を見守っているのです。


ところで、パンダが1回で出産するのは、たいてい1頭ですが、双子の場合もあります。双子 を産んだ場合、お母さんパンダは、どちらか強いほうの赤ちゃんを育て、もう1頭は育児放棄してしまうそうです。そのため、双子が産まれたときは、お母さんパンダに気づかれないように、飼育員が定期的に赤ちゃんをすり替える「入れ替え保育」をするのだそうです。


日本で一番、自然繁殖に成功している動物園は?

木の上で竹を食べるパンダ

さて、そんな難しい繁殖を、数多く成功させている動物園があります。和歌山県の「アドベンチャーワールド」です。つい先日、11月22日にも、男の子の赤ちゃんパンダが誕生しています。同園での赤ちゃんパンダの誕生は、これが17頭目で、この繁殖頭数は本場・中国を除くと世界最多となります。


※2020/12/22追記

12月22日、「アドベンチャーワールド」は11月に生まれた赤ちゃんパンダが、実は女の子だったと発表しました。パンダの雌雄判別は、肛門と尿道口の形やその距離で判定します。当初は、その距離が雌の標準よりも長かったため、雄と判断されました。ところが、雄ならば生後1ヶ月程度経過すれば作られるはずの精巣が確認できなかったといいます。また、尿道口周辺の形や尿の飛び方などを観察した結果、雌と判断されました。


鍵を握っているのはジェントルマンなグレートファーザー

この世界最多を誇る繁殖率の高さに最も貢献しているのは、16頭のパンダの父親であり、「グレートファーザー」と呼ぶにふさわしい雄の「永明(えいめい)」の存在でしょう。永明は1992年9月14日生まれの28歳。人間でいうと80歳を超えているにもかかわらず、「飼育下で自然交配し、繁殖した世界最高齢のジャイアントパンダ」としての記録を現在も更新中です。


永明が自然繁殖に数多く成功しているのは、ひとえにその「優しい性格」にあるのではないかと言われています。パンダの発情期は前述したとおり短いので、その間にタイミングよく交尾しなくてはなりません。交尾に際しては、雌に対して攻撃的になってしまう雄もいるといいますが、永明は常に優しく接し、雌が「その気になる」まで、辛抱強くじっと待っているのだそうです。おそらく、パンダ女子からは「心優しきイケメン」と噂されているに違いありません。


永明は1994年に雌の蓉浜(ようひん)と一緒に来園。蓉浜との間には子宝に恵まれませんでしたが、2000年に来園した梅梅(めいめい)との間に、6頭の子どもを授かりました。現在の奥さん・良浜(らうひん)は3頭目の奥さんとなります。この良浜との間には、今年11月に生まれた赤ちゃんパンダを含め、10頭の子どもを授かっています。


■アドベンチャーワールドのパンダファミリー家系図

パンダファミリーの家系図

が男の子、が女の子
※ ★が付いているパンダが、現在アドベンチャーワールドで暮らしている


2000年9月6日生まれの良浜は、実は前妻である梅梅の娘で、同園にとって初めての赤ちゃんパンダとして誕生しました。といっても、梅梅が中国で別の雄との間に身ごもった子どもなので、永明とは血のつながりはありません。


永明が「グレートファーザー」と呼ばれる一方、梅梅は中国では「グレートマザー」 と尊敬されたといいます。それは、双子を産んだ時、2頭を同時に抱いて授乳したからです。飼育下で、「2頭抱き」をして同時に育児をしたパンダは他にはいないそうです。


その「グレートマザー」の血は、良浜にもしっかり受け継がれていて、子育てが得意なのかもしれませんね。


ブリーディングローン制度で繁殖研究を開始したアドベンチャーワールド

アドベンチャーワールドは、上野動物園のように中国野生動物保護協会と協定を結んでいるわけではありません。同園は1994年に「中国成都ジャイアントパンダ繁育基地」の日本支部となり、「ブリーディングローン制度」を利用して、ジャイアントパンダの自然繁殖のための共同研究をスタートしているのです。「ブリーディングローン」とは、希少な動物を絶やさないよう、動物園や水族館同士で動物を貸したり借りたりする制度です。永明の子どもたちも、これまでに11頭が繁殖のために中国へ旅立っています。


パンダが「希少」でなくなる日が来ることを願って

穏やかにしている2頭のパンダ

11月に生まれた、永明にとって16頭目の子どもとなる赤ちゃんパンダは、元気にすくすくと成長しています。一般公開される日が待ち遠しいですね。早く赤ちゃんパンダに会いたいところですが、心優しきイケメン・永明の、グレートファーザーぶりも拝んでみたいものです。次回は、現地でのリポートをお届けしたいと思います!


さて、冒頭でお話したように、ここ数年で野生でのパンダの個体数は増えています。しかし、まだまだパンダは「希少動物」です。動物園などで会う機会があったら、パンダを取り巻く環境についても、思いをはせてみましょう。


※記事の内容と掲載画像は無関係です。


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