2018.03.23
前回は、生後1ヶ月の赤ちゃんの腸内フローラを見て、大きく2つのタイプに分けられることを確認しました。しかし、この2つのグループに何か違いがあるのでしょうか。
気になったので、赤ちゃんの住んでいるところや性別、お母さんの年齢、お母さんの食生活、両親のアレルギーの有無、ペットとの同居等、考えられることをいろいろ探ってみました。
生後1ヶ月の腸内フローラ(前回のコラムより引用)
ここで、少し前回の復習です。生後1ヶ月までの赤ちゃん7人の腸内フローラを見てみました。すると、生後1ヶ月目の腸内フローラは、プロテオバクテリア門が優勢のグループとアクチノバクテリア門が優勢のグループのふたつに分類できるという論文と同様の結果が得られました。
一体ここにどんな差が見られるのか。けんちゃんやりょうくん始め、7人のパパママにヒアリングした内容を今一度見直してみました。
すると…新しい発見が1つ。Aグループのけんちゃんやけんくんは身近にどうぶつさんがいないのに対し、Bグループのりょうくんやこころくん、あいちゃん、けいくんは、おうちにワンちゃんまたはネコちゃんがいることがわかりました。また、はやとくんは、おじいちゃんおばあちゃんのおうちにワンちゃんがいるそうです。
アクチノバクテリア門の何がポイントなの?
以前、今回の調査と同様の研究を、もう少し月齢を重ねた1歳半くらいまでのお兄ちゃん、お姉ちゃんでも行いました。
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その結果、ペットを飼育している家庭の赤ちゃんは全員、善玉菌といわれるビフィズス菌を保有していました。今回調べた7人でも、どうぶつが身近にいた赤ちゃんはアクチノバクテリア門が優位で全員ビフィズス菌を持っています(ちなみに、けんちゃんの8日目に出てきているアクチノバクテリア門は、ビフィズス菌ではなくマイクロコッカスという菌でした)。
※マイクロコッカスは、自然界に広く分布する菌で、病原性を持つことはほぼありません。食品加工等で活用されることもあります。
Dr.立川による解説!「ビフィズス菌=絶対いい」とは言いきれないけど~
皆さん、こんにちは。ここまで読まれて、「わが家は身近にどうぶつがいない! どうしよう」と焦ってしまった方もいるかもしれません。
しかし、ビフィズス菌とどうぶつがいることの明確な因果関係はまだ分かっていません。さらには、「ビフィズス菌がいることが絶対良い!」とは言い切れないですし、逆に「ビフィズス菌がいないことが悪い」とも言いきれません。
しかし、いろいろな文献を見ていると、今のところビフィズス菌がいて悪いことはあまりなさそうです。
ということで、今回はそんなビフィズス菌に関する論文をいくつか紹介します♪
論文①ビフィズス菌が赤ちゃんにもたらす効能
赤ちゃんの最初の腸内フローラはお母さんのおなかの中(腸)と膣、皮膚に由来する細菌から構成されますが、徐々に母乳に含まれる細菌やそのほかの成分によって変化していきます。
つまり、赤ちゃんの腸内フローラには母乳の成分が大きく影響するということですが、母乳中にビフィズス菌が多いと、赤ちゃんの健康に対して有益であるという研究報告がされています。
ビフィズス菌は葉酸などの必須栄養素を作ったり(葉酸は細胞分裂や血液を作るのに必要な栄養素で、赤ちゃんにとって非常に重要です)、腸の細胞のエネルギー源となったり、雑菌の繁殖を防ぐ働きのある物質(乳酸や酢酸)を作り出して赤ちゃんを外敵から守ってくれています。
Huda, M. N. et al. Stool microbiota and vaccine responses of infants. Pediatrics 134, e362–e372 (2014)./Fukuda, S. et al. Bifidobacteria can protect from enteropathogenic infection through production of acetate. Nature 469, 543–547 (2011)./Sugahara, H., Odamaki, T., Hashikura, N., Abe, F. & Xiao, J. Z. Differences in folate production by bifidobacteria of different origins. Biosci. Microbiota Food Health 34, 87–93 (2015).
論文②ビフィズス菌には母乳の成分が必要?
別の論文によると、赤ちゃんの腸内フローラの発達には、母乳に含まれるオリゴ糖の主要な構成成分であるフコシルラクトース(FL)が重要であることがわかりました。
生まれてから生後1ヶ月までの赤ちゃんの腸内フローラを調べたところ、FLを利用できるビフィズス菌が定着している赤ちゃんでは、FLを利用できないビフィズス菌が定着している赤ちゃんと比べて腸内フローラのビフィズス菌占有率が高く、病原菌となりやすい大腸菌群の占有率が低かったそうです。また、腸のエネルギー源となる酢酸の濃度も高かったそうです。
Takahiro Matsuki, et al. (2016)A key genetic factor for fucosyllactose utilization affects infant gut microbiota development
奥が深いぞ、腸内細菌
立川先生、ありがとうございました。
難しい内容でしたが…これら論文の結果より、どうぶつさんの飼育状況だけではなくお母さんの食事や母乳も大切なんだな、ということがよくわかりました。
ちなみに、最後に補足しておきますが、今回登場してくれたお子様のうち、りょうくん、こころくん、はやとくんは母乳とミルクを併用してあげています。母乳だけが良いというものでもありませんし、最近はミルクもさまざまな研究がされているのでご家族にとって一番良い方法を取っていただければと思います。
このコラムで示唆している研究成果は、まだまだ検体数も少ないですが、このコラムを通して、少しでも腸内細菌やご自身の健康、どうぶつさんも含めた家族の健康に興味を持ってくれる方が増えれば嬉しいな、と思います。
次回は、4/22(日)です。お楽しみに!
記事:豊田真紀(アニコムママ社員)、佐藤詩織(アニコムママ社員)、宮本亮太朗(けんちゃんパパ、アニコムパパ社員)、立川亜理沙(医師)
監修:医師・医学博士 星旦二
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