by 兵藤未來(獣医師) 2019.08.07
動物愛護について関心のある方の多くが、一度は聞いたことがあるであろう「ティアハイム」。動物にとって夢のような場所というイメージが日本では強いですが、実は「ティアハイム」と一言で言っても規模から運営方法までさまざまなのです。
ドイツ&オランダどうぶつ保護事情、第2回は、実際に視察を行った4施設を、それぞれの特徴や素晴らしいところ、あるいは課題もまじえてお伝えします。
【目次】
・世界最大規模の施設!ティアハイム ベルリン
・PRと地域連携が鍵のティアハイム ハノーファー
・小さいからこそできること。ティアハイム ファルケンゼー
・(おまけ)お隣オランダも負けてない!DOA
世界最大規模の施設!ティアハイム ベルリン
ネットで“ドイツ”“ティアハイム”と調べると、まっさきに出てくるのがこの『ティアハイム ベルリン』。サッカー場22個分というとてつもない広さで、世界最大の動物保護施設です。常時約1,400頭の動物が収容されていて、年間にすると約10,000頭もの動物を受け入れています。
これだけ大規模な施設なので、運営コストも相当かかります。動物たちの管理費用や医療費だけでなく、広大な設備の維持費、光熱費、フライヤーなどの制作費…その額、年間なんと約890万ユーロ!(日本円にして、約11億円) しかもこの運営費は、ほぼ寄付金でまかなわれているというのだから驚きです。加えて15,000人いる会員の会員費も、大事な収入源になっています。
■丸い形が特徴的な犬舎
▲犬舎を上から見た模式図
施設の中を見ていきましょう。まずは犬舎ですが、音が少しでも周囲にもれないように円形をしています。
▲各犬舎の内側。ご覧のとおり、丸い形
▲個室は、後述の施設と比較すると狭い方。それでも大型犬もじゅうぶん歩き回れる広さ
各犬舎には犬たちの個室があり、扉の横には犬の情報を記載したカードが置いてあります。中は屋内と屋外のスペースがあり、自由に行き来できるようになっています(図 参照)。さらに犬舎に隣接して広い運動場があり、交代で遊びに出ることができます。
▲中央の運動場。たのしそう!
ところで、この犬舎の内側について、別の写真をもう1枚ご紹介します。先程の写真は2018年11月に、こちらは2013年5月に撮影したもの。どこが違うかわかりますか?(※観葉植物の有無ではありません)
正解は、扉下部の目隠しの有無。2013年の写真は網になっていて、犬がお互いのことが見えるようになっていました。これが犬たちにとってストレスになるため、現在のように改装されたのです。
■圧巻の猫ロード!当の猫たちはというと…?
▲仕切りも全部透明!スタッフがお世話中
お次は猫舎。こちらは直線の建物で、ガラス張りの個室にずらりと猫が並んでいます。こんなに猫を見られるなんて、猫好きにはたまらない夢のような猫ロード…。ですが猫にとっては隠れるところが少なすぎてストレスを感じるという課題もあり、解決が必要だそうです。
■力を入れているのは「青少年教育」
▲施設紹介のパンフレットや、イベントのフライヤー
収容動物の数も種類も多く、規模も大きいティアハイム ベルリン。施設への来場をうながすべく、飼育者のアドバイスを行うためのセミナーや、季節ごと(直近ではクリスマス)のイベント等を行っています。中でも力を入れているのが「青少年に対する啓発教育」。「子供たちへの働きかけを通じて、彼らの親世代に活動を伝える」ことを目的としています。
施設の目的は、動物が終生そこで暮らすことではなく、やはり譲渡。規模が大きく頭数も多い分、動物たちを早く新しい家族のもとに届ける工夫が必要なのですね。
PRと地域連携が鍵のティアハイム ハノーファー
次にご紹介するのは、『ティアハイム ハノーファー』。収容動物数は約320頭(犬約90頭・猫約200頭、小動物30頭程)で、中規模クラスの施設です。年間約4,000頭を受入れ、約3,600頭を譲渡しています。
▲自由に遊ぶ犬たち。ドイツはやはり大型犬が多い
この施設で特徴的なのは、「PR」と「地域連携」の2点です。
■とにかく「PR」を大事にしている
収容動物数はティアハイム ベルリンの約3分の1にも関わらず、会員数はなんと13,000人。ベルリンの15,000人にせまる勢いです。会員集めの目的は会員費や寄付でもあるので、数が多いことは運営にとって大きな強み。これは、この施設がPRに注力してきたおかげです。
約20年前はわずか900人弱の会員数でしたが、専門のエージェントを雇い、その数を伸ばしてきました。インターネットやSNS、CMなどを活用して積極的に施設の紹介を行うほか、年4回会員に向け機関誌を発行し、活動状況を報告しています。
さて、ここでまた問題です。機関誌名の『Struppi(シュトルッピ)』、どういう意味だと思いますか?(さっぱりドイツ語が分からない私は、「幸せ」とか「希望」とかそういうことかしらと勝手に思っていたのですが…)
正解は、なんと“制作者が飼っている犬の名前”でした!…えー!そんなんでいいの!?と思いましたが、むしろ好感がもてる気もします。
▲機関誌。1冊32ページで、うち4ページ程は企業広告
PRでもう1つ特徴的なのが、企業スポンサーとのタッグです。
▲吹き抜けの猫舎。紫の看板は、出資した企業の広告。
写真は、猫舎の様子。出資した企業の広告看板が掲げられているのがわかります。先程ご紹介した機関誌にも企業広告欄があり、こうしたところでも広告収入を得ています。
PRをうまく活用し、資金集めを行っているということなのです。
■もうひとつの鍵、「地域連携」
ティアハイムは郊外にあることが多く、ハノーファーも例外ではありません。敷地の問題以外に、世の中は必ずしも動物が好きな人ばかりではないということにも配慮してなのでしょう。その分、周辺地域との連携を強化しておくことが大事だと考えているのかもしれません。
そのひとつの事例がこちら。
▲1個5€のマタタビ入り猫用枕。なかなか強烈な香り!
これは、地域の子供たちが考えた企画です。手作りの猫用まくら(マタタビ入り)を子供たち自らが作成し、売れたお金をエサ代に充てています。大人が指示するというわけではなく、一緒に、ときには子供たちだけで考えて行っているそうです。
参加する子供たちは、親が会員のことが多いそう。こうした場を提供するティアハイムによって子供たちが成長し、動物たちのためにもなり、そして親たちはティアハイムを応援する…。地域にいい循環を起こす、素敵な事例だと思います。
小さいからこそできること。ティアハイム ファルケンゼー
▲のどかな外観。土地は行政から安価で借りている
大・中とご紹介してきたので、次は小規模の『ティアハイム ファルケンゼー』です。
どのくらい小さいかというと、犬12頭、猫46頭、妊娠猫3頭が最大収容数。これだけ聞くと、「なんだかしょぼそうな施設…(失礼)」と思われるかもしれません。でもこのティアハイム、小さいながらに、いや小さいからこそ、いろいろな工夫がつまっているのです。
■行政との連携に注力
運営資金の獲得方法として、寄付金以外に行政との連携に力を注いでいます。行政区は自分たちの管轄する地域で発生した動物関連の問題の解決(飼育放棄、捨て犬捨て猫等々)をティアハイムに委託し、ティアハイムは支援金を受け取ります。
この施設では、2つの近隣行政区と連携の契約を結んでいますが、施設のさらなるパワーアップをめざし、他の行政区とも契約締結を行いたいと考えているそうです。
■「譲渡しない」を選んでも、野良猫がいてもいい
▲施設で終生飼養することが決まっている高齢の犬
資金集めに奔走する一方、この施設からは「適度なユルさ」が感じられます。
例えば、高齢で施設にも慣れ、今から譲渡するよりもずっとここで生涯暮らした方がその子のためになると判断されて、12頭しかないキャパの1つを使っている犬がいる、とか。
あるいは、ふらりとどこからかやってきて、保護されるわけでもなく、なんとなくそのまま居ついて愛想をふりまいている猫がいる、とか。いい意味での適当加減、人間らしいあたたかさのようなものが、ティアハイム全体にあふれていました。
▲看板猫然とふるまう、ただの野良猫。とても人懐っこい
(おまけ)お隣オランダも負けてない!DOA
▲オランダ建築らしい色づかいの外観
最後に、ドイツの隣国・オランダ、アムステルダムの動物保護施設にも足を運んだので、ご紹介します。施設名は『DOA(Dierenopvang Amsterdam) 』。オランダ最大、世界でもベルリンに次いで第2位の規模を誇ります。
年間で約3,000頭を収容している施設で、現在は犬180頭、猫200頭程が収容されています。
■とにかくオシャレ!デザイン性が高い
▲エントランスは吹き抜けで開放感抜群
まず驚くのは、そのデザイン性の高さ!外観の派手さもそうですが、本当にここ、動物保護施設?と疑ってしまうような、オシャレなデザインです。デザイン性って必要?と思われた方へ。断言します。絶対に必要です!同じ味のレストランで、明るくてキレイでオシャレなお店と、暗くて汚くてダサいお店だったら、どちらを選びますか?前者ですよね。
動物保護施設も同じです。そして、「人に来てもらう」ことが重要である、ということも。
■「人に来てもらう」仕掛けがたくさん
「人に来てもらう」ための工夫は、単にオシャレなことだけではありません。トリミングやホテル、ペット用品販売など、動物をすでに飼っている人向けのサービスが充実しています。もちろんDOAで動物を引き取り里親になった後も、こうしたサービスを利用するためにDOAにやってきます。
■行動療法と理学療法の2本柱
肝心の動物に対する接し方にも信念があるDOA。収容される動物は、どんな事情であれ精神的・肉体的に問題を抱えてくることが多くあります。そこでできる限りのケアをすべく、行動療法と理学療法の2点を軸にして行っています。
収容した時点から行動治療が必要かどうか見極めてトレーニングを行ったり、ストレス研究が専門のスタッフがいたり。特別なケアだけでなく、普段の生活にも行動学をとりいれています。動物の退屈を少しでもまぎらわすため、コング(なかにおやつを入れられるオモチャ)や紙の卵パックにエサを入れて与えるといった工夫がなされています。
▲犬の退屈をまぎらわすための工夫。コングなどのおもちゃや卵パックにエサをいれて与える
▲ただし卵パックはすぐに無残な姿に…(仕方ない)
もう1つの軸である理学療法については専用の部屋があり、マッサージをレクチャーするための部屋のほか、関節疾患等のリハビリで使うトレッドミル(写真)が用意されています。ここは外来も受け付けており、施設利用料を収入の一部としています。ここでも「人に来てもらう」工夫が見られました。
▲トレッドミルでリハビリ中の犬
ティアハイムといっても、本当にいろいろある
今回ご紹介した施設は、ドイツにある約1,400ヶ所のうちのたった3件(+オランダ)です。他のティアハイムを見れば、また違った方法で運営を行っているでしょう。でも、どの施設もそれぞれの特徴、工夫がありました。
中でも「人に来てもらう」というのは、とても重要なことです。「動物愛護」というと、つい動物に目がいきがちですが、動物を迎えるのも世話するのもあくまで「人」。そこに目を向けるのは、当たり前のようでいて、とても大事なことだと思います。
次回は、そのドイツの人々がどのように動物と接しているのかをご紹介していきます。
ちゅらとさくらさん
外国の事情は、どうなんだろうと気になっていたので、ジャストな記事です。
「かわいがる」だけではなく、「命に対して責任を持つ」という視点が、当たり前のことだけど、我が国では
浸透しているといえないと思います。
人間のために、動物がいるわけではありませんからね。
が、世界一の「超高齢社会」で、動物というパートナーに出会える幸福のためにも、もっともっと整えていく必要は
これからますますあると思います。
このような情報が多く発信されて、政治家にも有権者である我々の意識改革が進んでいくことを願います。
あにあにの母さん
日本のボランティアの施設や団体とはやり方も考え方も違い驚きました。
もちろん、ボランティアさん方は皆さんとても動物たちを大事に思い、日々身がすり減り血の滲むような努力をされておりますが、
人に来てもらおうという心掛け日本でもこれから必要ですね。
動物ボランティア発展途上の日本はどこまで変われるのだろう??
様々な面で難しい。