ドイツ&オランダ動物保護事情①~ここが日本と違う!ドイツの制度や文化~

by 兵藤未來(獣医師) 2019.08.06

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「ヨーロッパは日本よりも動物愛護が進んでいる!」という話を聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。実際、日本より進んでいる、日本より素晴らしい、という意見もよく聞きます。


本記事では、東京都獣医師会が主催するドイツ&オランダの動物保護施設への視察に参加した筆者が、現地で見て学んだペットにまつわる制度や仕組み、動物保護施設 (ティアハイム)、ペット事情などについてご紹介します。うらやましく思う点もあれば、文化や歴史の違いを感じたこと、よく聞くけど実際は違ったことなどなど、全3回にわたってレポートします。第1回は、日本と違うドイツの制度や文化、そしてそこで感じたことのお話です。



【目次】

・ドイツの憲法に「○○」が書いてある!

・『動物保護法』?『愛護法』??

・動物保護法には、殺処分のことも書かれている

・犬のリードにまで規則がある

・動物保護のために結成された獣医師会がある

・ドイツの「ティアハイム」と、日本の動物保護施設の違い

ドイツの憲法に「○○」が書いてある!

まずは『ドイツ連邦共和国基本法(Grundgesetz für die Bundesrepublik Deutschland)』について。これはドイツ国民の生活の基礎となる最上位の法律で、日本でいうところの「日本国憲法」にあたるものです。そしてなんとこの中の第20条aに、「動物保護」という言葉が明記されているのです!


つまりドイツでは、「動物保護」が人権や宗教の自由・財産保護といった原則と同等の重要性を持つものだと定められているのです。


一方で、日本国憲法には動物に関する項目はなく、動物に関して基本となるのは『動物の愛護及び管理に関する法律』(いわゆる『動愛法』)です。

『動物保護法』?『愛護法』??

日本の動愛法に似たものとして、ドイツの『動物保護法(Tierschutzgesetz)』があります。この法律では、「同じ被造物(生物)としての動物に対する人の責任に基づいて、動物の生命及び健康を保護すること」を目的としています。


一方で、日本の動愛法の目的は、「国民の間に動物を愛護する気風を招来し(中略)人と動物の共生する社会の実現を図ること」とあります。


人が責任をもって動物を保護すべしというドイツと、動物を愛護する気運を高めて社会を良くしようという日本。どちらが良い・悪いというわけではありませんが、目的からして明らかに違うということがわかります。


ちなみにドイツ語では「動物愛護」という言葉を適切に翻訳できないそうです。先程ご紹介した目的にあるように、ドイツ人にとって動物は「愛して護る対象」というよりも、「責任をもつ対象」という意識が強いのかもしれません。

動物保護法には、殺処分のことも書かれている

そしてこの動物保護法のもう1つのポイントとして、動物の殺処分と密接に関わる文章があります。「何人も、合理的な理由なしに、動物に対して痛み、苦痛または傷害を与えてはならない」というものです。


合理的な理由として、ドイツでは「病気等の苦しみからの開放」、「防疫・防衛の観点での安楽殺」はこれに該当するとされています。


後者は日本でも十分にあり得ます。例えば万が一犬に狂犬病が発生したら、その犬は殺処分の対象となります。しかし、前者はどうでしょう。いわゆる安楽死です。ガンと診断された自分のペットを、苦しむ前に死なせてあげようと考えるでしょうか。それとも、できるだけ手を尽くして長く生きてもらおうとするでしょうか。


ここは宗教観や歴史的背景といった文化の違いが多分に関わってくるので、どちらが良い悪いではありません。ただ、国民性として、ドイツでは「苦しむ前に」、日本では「できるだけ手を尽くして」と考える人が多いと言えます。


実際に、ドイツではアトピーであっても安楽死(安楽殺)の対象になるそうです。治らないもので苦しませるのは、可哀想だという考え方なのです。日本でのアトピーによる安楽死は、ほとんど聞いたことがありません。


一方で、健康で危害を与える恐れのない動物を安楽死させることはありません。法律上の安楽死させる「合理的な理由」がないためです。「引っ越しで飼えない」「飼育に飽きた」などの個人的な理由は、「合理的」とは認められないのです。


日本では、残念ながらこうした個人的理由による飼育放棄がきっかけで殺処分になることもありますが、ここは大きな違いだと言えます。

犬のリードにまで規則がある

▲ハノーファーの動物保護施設にいた犬


ドイツには『動物保護法』のみならず、『動物保護‐犬規則(Tierschutz-Hundeverordnung)』という犬に特化した規則があります。これには、犬を飼うにあたって飼い主が守るべき項目が、細かく記載されているのです。


例えば必ず日光があたる部屋で飼うことや、屋外飼育の場合は雨風をしのげる乾いた寝床を用意すること、果てはつないでおく際のリードの長さ(少なくとも横方向に5mは動けること)といった決まりまで!


そしてこうした細かい規則をつくることができるのは、どうやら次でご紹介する『TVT(動物保護のための獣医師会)』という組織が関係しているためなのです。

動物保護のために結成された獣医師会がある

▲ TVTのロゴ


TVT(Tierärztliche Vereinigung für Tierschutz e. V./動物保護のための獣医師会)』は、動物保護に特に関心がある獣医師で構成された団体です。獣医師会というと日本では公益社団法人として運営する団体が一般的ですが、TVTは学会や研究会といったアカデミックな集まり、と言った方が近いと言えるでしょう。それも各人の成果発表を目的とした学会・研究会ではなく、動物保護に関する知見を生み出すことを主な目的としています。


TVTの中にはペットだけでなく家畜や野生動物、実験動物、動物園動物の在り方や、輸送・麻酔・屠殺などの動物の取扱い方といったさまざまな観点をテーマとする11のワーキンググループがあり、それぞれ多くの報告書・ガイドラインを作成しています。動物を擬人化するのではなく、学術研究にもとづいた視点から動物保護に関する提案をしています。


この「擬人化しない」というのが、重要なポイント。もちろん人と共通する部分も多々あれど、幸せの感じ方もストレスのかかり方も各動物によって異なります。それをきちんと認識し、解剖学や生理学や行動学といった多岐にわたる分野で学術的に証明して、そしてそれに基づくケアをする。これが動物たちを幸せにするためにも必要なことである、という考え方になっています。そして、このガイドラインは、動物保護施設(ティアハイム)の運営や、裁判の参考材料など、動物にまつわるさまざまな場面で活用されています。

ドイツの「ティアハイム」と、日本の動物保護施設の違い

▲日本でも有名な、ベルリンのティアハイム


「Tier(動物の)heim(家)」とは、日本語でいうところの「動物保護施設」。大小さまざまな規模のものが、ドイツ国内になんと1,300~1,400施設も存在しています。ドイツの面積は、日本とほぼ同じくらい。そう広くない国土に、いかにたくさんの施設があるかがわかります(日本の都道府県で換算すると、1県あたりに30施設あるようなイメージ)。


また、日本では「ティアハイム=組織名称」と誤解されることがありますが、実際はそうではありません。施設を運営する団体もそれぞれ異なりますし、運営方法(規則や財政状況など)もバラバラです。ただし、運営資金の財源はどこも似ていて、地方自治体の支援金と、支援者からの寄付や遺贈によってまかなわれることがほとんどです。


日本でも寄付や募金はありますが、どちらかというと常日頃から皆が積極的に行うものではないと思います。遺贈となるとさらに珍しく、財産は自分の子孫に相続するものというのが日本での一般的な考え方です。


こうした寄付や遺贈が当たり前というドイツの文化は、日本にはない大きな違いで、ティアハイムのような施設運営にも大きな影響を与えていそうです。


次回は実際に視察を行ったティアハイムについて、大小さまざまな規模にわけてご紹介いたします。


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