アニマルセラピーって呼ぶのは日本だけ!? 犬や猫、馬、イルカなど動物種ごとの事例を紹介!

2021.09.30

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皆さんはアニマルセラピーと聞くとどのようなイメージをもちますか?
テレビ等では癒し効果について取り上げられることが多いアニマルセラピーですが、 実はそれだけではないのです!
そこで今回は、アニマルセラピーについて詳しく紹介いたします。


アニマルセラピーって実は日本だけの造語!

猫

そもそもアニマルセラピーという言葉が、実は日本だけの造語だということはご存じでしょうか?
本来は、目的や活動によって動物介在療法・動物介在活動・動物介在教育の3つに分けられています。


1.動物介在療法(Animal Assisted Therapy、略称:AAT)

病院などの医療機関で医師・作業療法士等の医療従事者とともに、患者さんへの補助療法として動物を介在させることをいいます。認知症ケアや緩和ケア、リハビリテーションなどの一環として医療従事者とともに行う活動で、精神的・身体的・社会的機能の回復向上を目的としています。治療目標や経過の記録を医療従事者が計画して行われます。海外では一般診療として行われている病院が数多くありますが、日本ではまだ数えるほどの病院でしか行われていません。


2.動物介在活動(Animal Assisted Activity、略称:AAA)

おひざの上のジャックラッセルテリア

高齢者施設などでの、動物たちとのふれあいによるレクリエーション活動をいいます。例えば順番に動物の身体を撫でてみたり、名前を呼んできてもらったりすることによる情緒的安定や生活の質の向上を目的としています。
アニマルセラピーという名称は、本来、動物介在療法を指します。しかし、日本で広く認知・活動されているアニマルセラピーは、この動物介在活動がほとんどです。動物介在療法との違いは、有資格者である必要がないので、自身の犬とともにボランティア活動として行えることです。


3.動物介在教育(Animal Assisted Education、略称:AAE)

学校をはじめとする教育機関等に動物とともに訪問し、ふれあい方や命の重要性について学んでもらうための活動です。教育を目的に、教育目標も立てて行われるものを指します。近年では、総合学習授業の一環プログラムとして取り入れる学校が増えてきています。
※アニマルセラピーの現状と応用(吉田、2015、参照)


アニマルセラピーの効果は?どのような人が対象?

犬や猫を撫でたり、動物たちと触れ合うとそれだけで癒されますよね。動物たちに癒されることで日々のストレスが和らげられているという方もいるかと思います。 アニマルセラピーは、このような癒し効果のイメージが強いかもしれませんが、他にも多くの効果を私たちにもたらしてくれます。アニマルセラピーの効果は主に生理的(身体的)効果、心理的(精神的)効果、社会的効果の3つに分けられます。

〇生理的(身体的)効果
・オキシトシン、ドーパミン、セロトニンの増加
・血圧、心拍、コレストロール値の低下
・痛みの緩和、身体機能の回復(リハビリ効果)
・リラックス効果
・ストレス緩和

〇心理的(精神的)効果
・自尊心、自己肯定感の向上
・不安感の低減(抑うつ状態の改善)
・気持ちの回復(元気になる、気が楽になる)
・感情の表出(言語、非言語)
・リラックス効果
・治療への前向き思考、行動力

〇社会的効果
・人間関係の円滑化
・発言、会話の増加
・コミュニケーション能力の向上


※アニマルセラピーの理論と実際(岩本、福井、1996参照)


このように動物たちが私たちに与えてくれる効果は計りしれません! これらの効果から、身体機能が低下した高齢者や認知症患者の方、精神疾患をもつ方、自閉症やダウン症といった治療法が不確立なものも含む病気や障害を抱える方、不登校や引きこもりなど困難を抱えている子どもたちといった、幅広い世代への効果が期待されています。


動物種ごとの事例をご紹介!

身近な犬や猫だけでなく、馬やイルカなど、感情の共有ができる哺乳類が自身の持つ特徴を活かして活躍しています。
しかし、人間と同じように動物たちもそれぞれが意思を持った生き物で、向いている子と向かない子がいます。加えて、健康にも考慮しないといけません。長時間の拘束でストレスを与えたり、体調を崩すような無茶をさせてはなりません。そういった動物側の個別の適性や福祉面も考えて行うことが私たちには求められます。


ここでは、犬や猫、馬、イルカの事例を紹介していきます。


「犬」

なでられる犬

最もポピュラーに活躍しているのが犬です。アニマルセラピーを行う犬は、セラピードッグと呼ばれています。犬は社交性が高く、人と積極的に関わることが好きな子が多いので、セラピードッグに向いている子も多いです。見知らぬ場所や音・人を怖がらず、人に触れられることが好き、吠えない・噛まないといった基本的なしつけができていれば向いているといえるでしょう。

また、数例ある日本の動物介在療法の現場にいるのも犬たちです!
神奈川県にある聖マリアンナ医科大学は、2015年4月から大学病院では全国で初めて動物介在療法を導入しました。ミカという黒のスタンダードプードルが、勤務犬として人間と同じ職員証を持ち、常駐勤務しています。主に入院患者の緩和ケアを行っています。例えば、手術を受ける男の子と一緒に手術室へ向かうことで、恐怖心を和らげ、麻酔量の増加を防いだりしています。他にも、手に麻痺のある高齢者とボール遊びをして、一緒に遊びたいという患者自身の意欲を引き出し、リハビリ回復へと導いたりします。 ミカと同様に、高度な専門的トレーニングを受け、病院などの施設に常駐して活動するセラピードッグたちのことをファシリティドッグといいます。日本では主に小児病院で活躍しています。
※聖マリアンナ医科大学ホームページ参照
https://www.marianna-u.ac.jp/houjin/lifelog/20190201_04.html


「猫」

抱っこされる猫

猫がゴロゴロと喉を鳴らす理由はいくつかありますが、このゴロゴロ音は人の副交感神経を刺激する約20~50ヘルツの低周波音で、ストレスを軽減し、幸福感を与えてくれるといわれています。また、ふれあうことでもオキシトシンと呼ばれるストレス緩和や気持ちを落ち着かせてくれる効果があるホルモンが分泌されます。このオキシトシンの分泌量は犬よりも猫の方が多いといわれています。
幸福感はうつ病にも効果があるとされています。犬とはまた違った猫特有の魅力である自由気ままな行動や姿をみて、自分も自由でいいのだと心が楽になり、自己解放の手助けとなる効果があるのです。また、コミュニケーションに壁を感じる人にとっても、猫がただ寄り添ってくれることで、自らコミュニケーションを取ろうと変化をもたらすような効果もみられます。

日本では犬に比べてまだ珍しいですが、白い日本猫のヒメというセラピーキャットが活躍しています。ヒメはアニマルセラピー実践家・応用動物行動学研究者の小田切敬子さんの飼い猫で、共に暮らすセラピードッグのそばで育ちました。 認知症や精神疾患を抱える人々とふれあい、ヒメを通じて声掛けやコミュニケーションを重ねていくことで身体機能やコミュニケーションの回復・反応の手助けとなっているのです。例えば、意思疎通が困難だった人でもヒメの存在があることで、「猫すきですか?」「うん」と会話が成立するように変化したそうです。

※すべての猫はセラピスト 猫はなぜ人を癒せるのか(眞並、2017、参照)

「馬」

馬は、一番歴史が古く、古代ローマ時代に負傷した兵士が馬に乗ることでリハビリを行ったのがアニマルセラピーの起源といわれています。アニマルセラピーの中でも医療、教育、スポーツと多用な領域を含んでいるという特徴があります。 また、乗馬によって直接的なリハビリ効果を与えられるという他の動物にはない特徴もあります。乗馬の腰や上半身の動きは実際の歩行と同じ動きをしていて、適度な刺激が与えられることで、バランス力や運動能力に影響を及ぼすことができるのです。
ホースセラピーは日本各地の21施設で実施されています。障害者乗馬を行っている協会では、自身の体を支えることができず寝たきり状態であった重度脳性麻痺の少年が、長年のリハビリと乗馬活動によって歩行器で歩行するまでに改善した事例もあります。
その他、馬という大きな動物とふれあうなかで、必然的に人ともコミュニケーションをとることが求められ、社会性の面でも効果を発揮します。
※手綱、繋がる思い 馬は体と心のセラピスト(ダイヤモンド・ビジネス企画、2014参照)


「イルカ」

一方で、イルカは比較的歴史が浅いです。
しかし、他の療法を受けても効果が表れにくい重症の障害を抱えている子どもたちに効果があるといわれています。 フロリダ州のキー・ラーゴ島では、先天性の脳障害を抱えるヤスミンという少女が、イルカのスパンキーと交流を繰り返したことで、それまでは何かを話すことも、物をつかむこともできなかった状態から、歓声をあげたり数語話したりすることが可能となった事例があります。

イルカがこのような重い障害を抱える人へ効果的な理由として、イルカのもつ知覚感覚が人間と異なっていて、身体的弱さや情緒的なことを敏感に感じ取り、その人物のもとへ出向き、優しく受け入れ、相手にあった行動を自発的に行えるという特徴があるからだと考えられています。実際に、イルカとふれあう際に、身体や精神に抱えているものがある人とそうでない人がいると、抱えている人を見分けて寄り添う行動をしているのです。

※イルカがくれた奇跡―障害児とアニマルセラピー―(今泉みねこ訳、2006参照)


アニマルセラピーによって、医療費&殺処分数削減も!?

北海大学の研究論文では、殺処分予定の犬をセラピードッグとして育てることで殺処分数の減少を、そして高齢者施設へ導入することで通院回数が減少し医療費削減効果があると論じています。推計では、全国で約19万頭のセラピードッグの需要が発生し、医療費は年間1,350億円以上の削減効果の可能性があると分析されています。

相当なインパクトのある効果となりますが、果たして本当に可能なのでしょうか? 
医療費の面では、UCLA医科大学の精神科の臨床教授であるダニエルJ.シーゲルが行った、日頃、一定のストレスを抱えている高齢者の通院回数の調査を参考に説明します。 この調査では、犬と暮らしていない高齢者の通院回数が年間10.3回に対して、犬と暮らしている高齢者は年間8.6回にとどまっていることが明らかになっています。1.7回通院回数が減少しているという結果から、効果的であるといえます。 また、メルボルン大学のHeadeyのチームが行った調査でも、ペットとともに暮らしている人は暮らしてない人と比べて約15~20%通院回数が少ないという結果が出ています。これを医療費に換算したところ、ドイツで約7,500億円、オーストラリアでは約3,000億円の医療費削減効果の証明がされました。

そして殺処分予定だった犬たちの育成の面は、すでに類似のことに取り組んでいる団体があります。一般財団法人国際セラピードッグ協会では殺処分寸前であった犬たちや東日本大震災の被災犬たちをセラピードッグとして育成し、殺処分0を目指す活動をしています。人間への信頼を一度なくした子でも献身的に愛情を注いで育てあげ、動物介在療法の現場では私たちに力を与えてくれる存在へとなっているのです。

※一般社団法人・国際セラピードッグ協会ホームページ参照
https://therapydog-a.org/organization/
※わがこころの犬たち~セラピードッグを目指す被災犬たち~(大木、2013参照)

これらのことから実現可能かつ極めて効果的であるといえ、医療・福祉の現場でもセラピードッグを取り入れることで今後の日本の社会問題へも影響を与えられるのではないでしょうか。

日本のアニマルセラピーのこれから

ラブラドール・レトリーバー

日本におけるアニマルセラピー、特に動物介在療法は発展途上ですが、人にとっても、そして動物たちにとっても明るい未来の一つだといえるのではないでしょうか。


しかし、解決や留意しなければならない課題もあるのが現状です。 第一に、従事してくれる動物たちの健康への影響を考えなければなりません。私たちがさまざまな効果を彼らから得て、その結果、健康や寿命、ストレスに多大な負荷をかけてしまうという恐れもあります。セラピストはじめとした共に行う人間が個々の適性や意思を見極めること、影響へのエビデンスを集めることが必要であると考えられます。 また、動物に限らず、人間への効果もエビデンスを確立させる必要があります。まだまだ科学的証拠が不十分であり、これらを集めることで海外のように浸透することが期待できます。 最後に、国として取り組みが必要とされることもあります。 アメリカやイギリスなどの先進国では、治療行為として公的に認可されていて、薬の処方のようにペットと暮らすことを勧める処方がされているのです!ドイツでも、一般診療として動物介在療法が取り入られている病院の報告も多くあります。 また、日本ではセラピストをはじめ実施に必要な資格要件が存在しません。携わる人々への制度が十分に整っていないという問題もあります。 海外のように普及していくためには、公的認可や必要資格を確立するといった法整備を行っていかなければなりません。

エビデンスや法整備等の課題はいくつもあることが現状ですが、お互いに助け合える環境を作れるといいですよね。 まずは、アニマルセラピーがどのようなものか、一人でも多くの人にその効果と可能性を知ってもらえたらと思います。

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