動物の骨から花を咲かせる『命の花』が目指すもの

by 兵藤未來(獣医師) 2018.12.04

『命の花』というプロジェクトをご存知だろうか。


殺処分された動物の骨を砕いて肥料にし、花を咲かせるというものである。青森県の高校生たちが、2012年から取り組むプロジェクトだ。


その衝撃的な光景は、さまざまなメディアで波紋を呼び、賛も否も巻き起こした。若き高校生たちは、この活動の先に、何を目指すのだろうか。


プロジェクト発祥の場所、三本木農業高等学校

▲明治31年創立の、由緒ある学校


青森県立三本木農業高等学校は、青森県十和田市にある生徒総数約500名の農業高校である。東京ドーム11個分という広大な敷地面積に、緑豊かな農園が広がる。


牛や馬、鶏といった家畜も数多く飼育されていて、畜舎の前を通れば、嗅いだことがある人ならわかるであろう、あの家畜独特のにおいが漂う。

▲大型の家畜が多数飼育されている。人懐っこく、近づくと寄ってくる


そんな中を、作業着を来た生徒らが、自転車に乗って活き活きとした表情で移動していく。知らずに迷い込んだら、高校の中とは思えないような、のどかな風景だ。


三本木農業高等学校の学科(専門コース)のひとつに「動物科学科」がある。農業高校で扱うのは産業動物がほとんどだが、この高校では愛玩動物(ペット)についても学ぶことができる。全国でみても、なかなか珍しい教育プログラムだ。


さらにこうした学科の中で、2年生への進級段階で研究室に所属する必要がある。そうした研究室の一つが、『命の花』プロジェクトを行う「愛玩動物研究室」だ。


この研究室では、この年頃の高校生が興味をもつような遊びやオシャレをしている暇はない。日々作業着に身を包み、朝から晩まで動物の世話に追われる。それでも動物が好きでこの研究室に入ってくる生徒たちである。一生懸命に世話をする。そうした生徒たちに対して、手塩にかけて育てた家畜を屠殺して食べるという経験もさせる。命について、考えるためだ。

▲愛玩動物研究室の生徒らと、彼女らが飼育するミニブタ。他に犬や猫なども


愛護センターの見学から

この研究室では、毎年動物愛護センターの見学に行くそうだ。ここは、飼育放棄や所有者不明、野良などの犬猫を収容する場所である。収容された犬猫は、数日間の抑留ののち、引き取り手がいない場合、殺処分される。死体は焼却処分され、骨だけになる。それは「一般事業系廃棄物」、つまりゴミとして処理される。


2012年のこと。例年通り、研究室担任の赤坂圭一(あかさか けいいち)先生は、生徒たちを引き連れて動物愛護センターを訪れた。はじめは収容されている犬猫を見て「かわいい」と笑みをこぼしていた生徒たちは、彼らがたどる運命をつきつけられ、次第に表情を曇らせていく。


そして、ボタン1つで炭酸ガスによって安楽死させられていく様子を目の当たりにする。動物好きな生徒たちには相当なショックだろう。しかし、何より衝撃だったのは、この骨がゴミとして捨てられるという事実だった。

▲センターから送られてくる骨。袋いっぱいに詰まっていて、重さは25kg程


人間の都合で殺され、遺骨として供養されることもなく、そして土に還ることもない。


「話として聞いていても、実際に目にしないとわからないことがある」


赤坂先生は、あえてこうした実態を、生徒たちに経験させ続けている。


見学後、生徒のひとりが、赤坂先生に話しかけた。「亡くなった犬猫のために、何かできることをしたい」。せめて土に還して供養してあげることはできないか。熱心に話すその生徒の考えに、赤坂先生は共感した。


でも、それだけではなく、もう一歩。そう考えていく中で出たのが、骨を肥料にして花を咲かせ、もう一度、「命」を与えようというアイディア、『命の花』だった。


『命の花』の存在を広める、という挑戦

▲『命の花』の作業をおこなう愛玩動物研究室の生徒たち


考え抜いて生まれた『命の花』の作業そのものは、極めてシンプルだ。愛護センターから譲りうけた動物の骨を、粉状になるまで砕く。それを肥料として土地に混ぜ、育てた花の苗を植えていく。


シンプルだが、決して簡単なことではなかった。センターから届く骨の中には、首輪など明らかに飼い主がいたとわかる痕跡も含まれていることもあった。骨を砕くのも、重たいレンガを使って、すべて手作業で行っていった。


死んだ犬猫のことを考え、どうしても涙が出た。それでも、何かしてあげたいという想いが、生徒たちを動かした。

▲肥料にする骨。サラサラの粉状になるまで砕いている


▲生徒らが育て、咲かせた花。ひとつひとつポットに植え替え、配布した


さらに赤坂先生と生徒らは、この花の存在を、広めることにした。花を通じて、殺処分された犬猫のことを知ってもらいたいと考えたためだった。しかし、不安もあった。「動物の骨が混じった花なんて、気持ち悪がられるのではないか」それでも、挑戦を決めた。


ペット関連のイベントへの出展が決まり、そこで花の配布を行うことになった。皆の不安は、杞憂に終わった。7割の人が、理解を示し、その花を受け取ってくれたという。

もちろん、非難の声もあった。死んでまで痛い思いをさせているようで可哀想だ―。そんなことをして、供養どころか呪われるのではないか―。


それでも、彼らは「成功」したのだ。なぜなら、このプロジェクトの目的は、“問題提起”だからである。


“問題提起”に成功した『命の花』

赤坂先生は、こう話す。


「『命の花』プロジェクトによって、殺処分が直接的に減るわけではありません。それでも、高校生たちが涙を流しながらもこうした活動に取り組んでいることを知ってもらうこと、そして知った人がそれぞれ犬猫との関わり方を考えてもらうことが、大事なのだと思います」

▲配布時に添える、生徒らによる手書きのメッセージプレート


支持する声もあれば、非難の声もある。つまりそれは、議論が起きているという証拠だ。今では結果として、このプロジェクトは多くのメディアでも取り上げられ、書籍化され、演劇にもなっている。こうして、彼らは極めてシンプルな方法で、犬猫の殺処分という“問題提起”を成功させた。


もちろん“問題提起”の次のステップには、“解決”が必要である。しかしそれは、このプロジェクトの役割ではない。


まずはこの提起された問題を、一人でも多くの人が受けとめること。そして改めて、犬猫との関わり方を考えること。その上で、人に話すでもいい。現状について、調べてみるでもいい。それだけでも、解決に向けた一助であることは間違いない。

▲赤坂先生(中央)と、愛玩動物研究室の生徒たち


【補足】『命の花』公演について

文中で触れた演劇については、現在劇団銅鑼が公演を行っている。プロジェクト発足までの道のりを、リアルに描いた内容となっている。

▲9月21日に十和田市民文化センターで行われた公演の様子


【公演予定】

■12月16日(日)18時15分開演
場所:神奈川県南足柄市民会館
主催:神奈川県西部こども劇場協議会


※観覧に関するお問い合わせ先:主催者


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