2020.06.17
どうぶつ好きなら誰もが一度は、動物園や水族館で働いてみたいと夢見たことがあるはず。アニコムには、元飼育員のキャリアを生かし、誰よりもどうぶつたちの心を理解できる代弁者として活躍している社員がいます。
今回は、兵庫県の城崎マリンワールドで4年半、アシカ・イルカの担当をしていた芦澤さんにお話しを聞きました。
きっかけは、ワンちゃんの“死”でした
―水族館で働こうと思ったのはいつ頃からですか?
小学校2年生のときに、従妹が飼っていたワンちゃんが1歳の誕生日に事故で亡くなってしまいました。その事故をわたしは、遠くから見ていて…。今思えば、そのときのショックな気持ちが、「どうぶつの命を守りたい」という気持ちに変わっていったのがきっかけだったと思います。
それ以前から、両親によく水族館に連れていってもらっていて、将来は海のいきものたちを救う海獣医になりたいと思うようになりました。そこから何年か経って、水族館の飼育員として働きたいという想いに変わっていきました。飼育員として、水族館のいきものたちの命を支えることが、新たな夢になりました。
思ったよりも、いきものと接する時間は短い。
―働き始めて、想像していた水族館の飼育員とのギャップはありましたか?
たくさんありました(笑)!
思っていたより、いきものと好きなように接する時間が少なかったですね。ごはんやショーの準備、掃除などをしているとあっという間に一日が過ぎてしまいます。
―ごはんの準備は、具体的にどんなことをするんですか?
冷凍された魚を解凍して、ウロコやヒレをとって、さばいて、補液(餌の水分補給)をしていきます。
―補液って…なんですか?餌に水をあげる…?
海のいきものたちがどうやって水分補給をしているか知っていますか?実は、海の中で暮らすいきものたちは、生きた魚に含まれている水分で、水分補給をしています。
でも、水族館でいきものたちにあげている魚は冷凍。冷凍した魚を解凍すると、水分がほとんど抜けている状態なので、餌である魚に水分を入れてあげるんです。しかもこれ、餌の魚1匹ずつやります。地味に大変な作業なのです(笑)。
―1匹ずつやるんですね。すごい…!
そうですね。ウロコやヒレなどで手が切れてしまうこともありました。そのままショーに出たりもするので、1年中傷だらけでした。
―一番大変だったことはなんですか?
1日に何度もショーをすることですね。
朝9時に水族館がオープンして、大きなショーが5回、小さなショーを4回担当していました。水族館にとって、ショーはお客様とのコミュニケーションが一番とれる場所。スタッフ全員、ショーにかける想いはとっても強かったです。
ただ、ショーが多いので、ゆっくりお昼ごはんを食べる時間はもちろんありません。ショーとショーの間の10分ほどでかっ込んでいましたね。
水族館で暮らすいきものたちのほうが、しっかりごはんタイムがあるので「わたしにもその時間欲しい~!」と嘆いていました(笑)。
毎日雪かき。これが意外に辛い!
あと、1年の中で一番過酷なのは圧倒的に冬。兵庫県の海側に位置する城崎マリンワールドの地域一体は、真冬になると雪が降ることも。屋外のステージや水槽もあったので、雪がプールの中に入ってしまい水温が下がりすぎるといったことのないよう管理をしたり、お客さんが通る道を毎朝雪かきしたりしていました。外での展示が多い水族館だったので、こんな風にいきものにだけでなく、お客さんに安心して回っていただけるように目を光らせておくことも、飼育員の重要な仕事です。
―水族館の飼育員ならではの悩みってありましたか?
とにかく、家についても魚の匂いがとれない!(笑)洗っても、洗っても体中に魚の匂いが染みついていたような気がします。
あとは、仕事終わりに飲み会に参加したときに、「なんか付いてるよ。」と言われて鏡を見たら魚のウロコが髪の毛についていたこともありました(笑)。恥ずかしかった…。
気持ちが伝わると、嬉しい。
―一番思い出に残っている経験はなんですか?
水族館の飼育員全員から、「咬むアシカ」と思われていた子がいました。わたしは、ショーでいきものとの絆を感じられる“抱きつく”という種目をやりたいと思って、トレーニングを始めることにしました。
―いきものに種目を覚えさせるって、どうやってやるのですか?
まず、ターゲットと呼ばれる道具を使用します。(※写真参照)
はじめは、近い距離から「ターゲットのあるところに顔をもってくる。」という流れを何度か繰り返して覚えさせていきます。毎日練習して、少しずつ肩の位置までターゲットをもって来ると、自然と人との距離が近くなり、最終的に“抱きつく”ことができるようになるんです。
―ひとつの種目を教えるのに、どれくらいかかりますか?
種目やいきものの種類によって異なりますが、半年から1年くらいかかります。種目が完成したらたくさん褒めてあげて、いきものたちと絆を深め、ショーで披露できるような形に調整をしていきます。水族館のショーでは、「いきものたちとこんなことができるの!」と驚いてもらいたいという一心で、練習をしていましたね。
―ショーのひとつひとつに、そんな飼育員さんたちの想いがあるんですね。
はい。気持ちを通い合わせていれば、いきものたちと繋がれるということをショーという形でお客さんに伝えたかったですね。とはいえ、相手はいきもの。練習中もショーの最中も、一瞬でも気を抜いてはいけません。一つ間違えると、大きな事故につながる可能性があるのも事実です。
命を支える。命を守るということ。
―最後に、水族館の飼育員として働く魅力を教えてください。
とにかく、いきものの一番近くで命を支えてあげられることだと思います。正直なところ、彼らは望んでこの場所に来ているわけではありません。大海原をスイスイと泳いでいる方が、自由だし、本当の意味ではそっちの方が幸せなのかもしれません。でも水族館や動物園は、人間にいきもののすばらしさを教えてくれます。だからこそ感謝の気持ちも込めて、水族館という場所で最高の人生を送ってもらうためのサポートをしなければならないと思います。
そして、水族館という場所で毎日一生懸命生きているいきものと、彼らを知りたいと思ってくれるお客さんを繋ぐ架け橋になれるということ。これは、飼育員にしかできないことだと思います。
現在は、アニコムでどうぶつとお客様の架け橋となるコールセンターで働く芦澤さん。命の重さ、命の大切さを自分の言葉で伝えるという根本的な部分は変わらず、今でも、働いていた水族館へ足を運んでしまうといいます。芦澤さんの、いきものへの愛情がいかに深いのかがわかります。
毎日近くで、いきものたちの命を守りつづけた芦澤さん。彼女のいきものへのまなざしは、ただ優しいというだけではなく、すべてのいきものに対する愛を感じることのできる暖かさでした。